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» 2013年01月26日 13時00分 UPDATE

「復興という状況にはまだない」――陸前高田市長が語る被災地の現状 (3/4)

[堀内彰宏,Business Media 誠]

土地の所有者が分からないところでは何も進められない

――先日、陸前高田に行った時、「土地を売ってくれないので新しい生活が送れない」という声があったのですが、これについてどのように思いますか。

戸羽 たくさんの方々が亡くなったため、今、所有者が分からない土地があちらこちらに点在していて、そのことによって土地利用できないということがあります。また、海の近くについては市として危険区域に指定して、そこに家を建ててはいけないというルールにしています。

 そういう意味では、みなさんには山を削ったり、造成したりしないと新しい土地を提供できないというのが現状なので、そこは住民のみなさんにご迷惑をおかけしているということだと思います。

――久保田崇副市長が「陸前高田市は税収が少ない」と言っていたのですが、どうやって税収を増やしていこうと考えていますか。

戸羽 もともと陸前高田市は本当に税収が少ないところで、産業といっても漁業や水産加工業があるくらいで、企業らしい企業がないんですね。ですから、先ほど申し上げましたが、ノーマライゼーションという言葉が必要のない街を作ることによって、福祉分野の雇用をしっかりと作っていくことが、地域のこれからの活力には必要なのではないかと思っています。

――陸前高田市に限らず、東北の多くの自治体では海岸線が長くなっています。高台移転のための予算についてどのくらいかかると考えていますか。

戸羽 高台移転については非常にお金がかかります。陸前高田市は被災する前は年間の一般会計予算は110億円くらいでした。それが2013年度3月期の予算は660億円、2014年度3月期は1000億円を超えると思っています。通常の10倍のお金がかかることになります。

 「お金がかかるからいかん」ということになればしょうがないかもしれませんが、日本人というのは、米国人もどこの方もそうかもしれないですが、自分の故郷に愛着を持っています。そこに住まないと、みなさんの生きがいがなくなってしまうんですね。

 ですから、お金と絡める話であるとすると、あまりよろしくない話かもしれないですが、いくらお金がかかったとしても、そうしないと多分みなさんも納得しないんだろうと。ただ、日本政府そのものが大きな借金を抱えているので、ずるずると長い時間かけて復興させるともっとお金がかかるので、国が短期集中でやるべきだということは、この間ずっと政府にも申し上げてきています。

――陸前高田市にはどういう産業が向いていると思いますか。

戸羽 (陸前高田市は)道路がないので、交通の便が非常に悪いです。自動車産業を誘致したとしても、作った部品を大きな工場まで運ぶコストは当然かかってきますから、基本的には海でとれたものをその場で加工するとか、地域の利点を生かせるものでないと、会社経営は成り立たないと思っています。合わせて、大きな資本がなくてもできるビジネス、例えば観光業のようなものをしっかりやっていく必要があると思っています。

 ただ、陸前高田市民だけで知恵を絞ってもどうにもなりません。経済人からもいろいろとアドバイスをいただき、資本も出していただいて、雇用の場を作っていただいてきたので、今後も私たちというより、みなさんからいろんなアイデアをいただきながら、街作りをしていかないといけないと思っています。

――災害で大きな傷を負った市民たちは今、どのような感情を抱いていますか。

戸羽 東北は非常に冬が長いです。11月から寒くなってきて、3月までが冬です。ですから今、住民の方々はあまり元気がない状況だと思います。私たち行政はそういう人たちが少しでも元気になれるように、あるいは復興に向かってしっかりと顔を上げて前に進めるように、しっかりとモチベーションをキープさせてあげないといけないと思っています。

 これまでいろんな準備をしてきましたが、今年は実際にいろんなところで工事が始まる、目に見える形で復興が始まる年だと思うので、住民の方々にとっては少しは希望が見える年になるのではないかと思っています。

ah_toba4.jpg 陸前高田市公式Webサイト

――新政権に変えてもらいたいことはありますか。

戸羽 基本的には全部変えてもらいたいと思っていますが、その中の1つに復興交付金があります。復興交付金にはメニューというものがあって、メニューに入っていないものには使ってはいけないというルールになっています。

 私たちの街は壊滅しています。その中で、図書館も体育館も博物館もプールもみんななくなっているのですが、復興交付金の中に社会体育施設や教育施設のメニューはないんです。ですから、私たちが体育館を作ろうとしても、なかなか予算を探し出せなくて前に進めません。ここをまず変えてもらわないといけないですし、それがなければ私たちの街の復興はないと思っています。

 それから先ほどもお話が出ましたが、土地の所有者が分からないことで、何もできない土地が出てきます。土地の所有者が見つからないところについては、強制収用とまでは言いませんが、ある程度我々の裁量の中で自由にできるような法律を作っていただかないと、これもなかなか前に進まないだろうと思います。

 政府はまだ、被災地の実態をよくお分かりではないと思っています。例えば、災害復旧事業という、国のお金で畑や田んぼを元に戻すことができるものがあります。でも、それは2013年中に完了しなければいけなくて、それ以降はもうやってはいけませんというルールなんです。でも、先ほどから言っているように、復興のふの字もない時に「その農地を2013年までに戻しなさい」と言われてもできるわけがありません。できるわけがないことを平気で国が言って押しつけてくることが、国の官僚と我々被災地のボタンの掛け違いにつながっているのではないかと思っています。

ay_rt03.jpgay_rt04.jpg 陸前高田市で唯一のホテルだった「キャピタルホテル1000」。2012年8月に再建計画が発表されている(2012年11月、撮影:吉岡綾乃)

――復興のための労働コストが上がっていると聞いていますが、どのようにお考えですか。

戸羽 確かに物価が上昇しているといいますか、労働賃金が上がっている現実はあると思います。そして、労働力を確保することが非常に難しい状況になっています。これは被災地の範囲が非常に広いことがあると思いますし、陸前高田市の状況を申し上げれば、例えば工事に携わる人が100〜200人必要で、東京から陸前高田市に来るとしても、街が壊滅しているので、寝泊まりする場所が確保できません。

 昔は飯場という、工事をする人たちが寝泊りした一時的な建物があったのですが、そういうものを今から作って、それから工事を始めないといけないという状況があるので、今後、労働力不足については大きな問題になってくると思います。賃金のこともありますし、資材についてもいろんな材料が高騰していて、足りなくなっている現実があります。

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