アベノミクスを世界はどう見ているのか藤田正美の時事日想(1/2 ページ)

» 2013年01月28日 08時00分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 Abenomicsという言葉が海外のメディアを賑わしている。特に日銀に対する安倍首相の「圧力」は、あちらこちらから懸念する声が上がっている。ドイツのブンデスバンクやロシアの中央銀行、イングランド銀行、そして韓国。中央銀行の独立性を心配する声もあれば、「通貨戦争」を始めるつもりかという声もある。

 フィナンシャルタイムズにハーバード大学教授のニーアル・ファーガソン氏がアベノミクスについてのコラムを寄せている。

 その中に興味深い指摘がある。そもそも通貨戦争といっても、世界の通貨が、金本位制を完全に離れたのは1971年、ニクソン米大統領がドルと金の交換停止を発表した時だ。従って現代社会で「通貨戦争を仕掛けるのか」とある国が別の国を非難するのは馬鹿げているとファーガソン教授は言う。「40年間以上にわたってずっと通貨戦争が続いてきたし、それはすべての国とすべての国の戦いだ」

 ファーガソン教授は、日本に対して同情的だ。何といっても日本は「失われた20年の国」だからである。さらに日銀が発表した金融緩和(資産購入)にしても、「革命的とは言えない」と言う。米FRB(連邦準備制度理事会)の資産膨張ぶりに比べれば、日銀が買い入れるとしている資産は、はるかに小さいとも指摘する。

 安倍首相が日銀に圧力をかけたとして欧州などから批判されると、珍しく素早く日本政府が反論をした。甘利経済再生相がこんな内容のことをフィナンシャルタイムズ紙のインタビューで言ったのである。「ドイツはユーロという固定相場でさんざん輸出してもうけてきた国。そんな国に言われたくない」(ただしこれは英語の記事からの翻訳なので日本語が正確にどういう表現だったかはわからない)。

 さらにファーガソン教授はこうも言う。BIS(国際決済銀行)が発表している実質交換レートを見ると、日本が為替を安くしようとするのも当然だ。2007年8月から2011年10月にかけて日本の実質レートは27%も上昇している。そしてこの5年半の間で、最も為替戦争に勝利した国は、韓国とイギリスなのだそうだ(韓国は2007年8月以来、19%の実質ウォン安、イギリスは17%のポンド安だという)。

 安倍首相のブレーンであり、金融緩和の急先鋒でもある浜田宏一イェール大学名誉教授も、為替によって日本の企業は経営努力だけでは補えないほどの負担を背負わされた、それはすべて日銀の責任だと著書の中で指摘している(『アメリカは日本経済の復活を知っている』)。

 →「株高円安は日銀の不熱心さを露呈させた――浜田宏一氏が語る金融政策のあり方

 こういった「援護射撃」があったおかげかどうかは分からないが、ダボス会議では日本の立場を理解する声が結局は強かったようだ。もちろん世界のどの国にとっても、日本という世界第3位の経済大国がいつまでもデフレの波間に沈んでいていいはずがない。日本が復活することは甘利大臣が言うように世界経済にとっても歓迎すべきことだ。

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