1979年北海道生まれ。浄土真宗本願寺派光明寺僧侶。蓮花寺佛教研究所研究員。米日財団リーダーシッププログラムDelegate。東京大学文学部哲学科卒業。超宗派仏教徒のWebサイト「彼岸寺」を設立し、お寺の音楽会「誰そ彼」や、お寺カフェ「神谷町オープンテラス」を運営。2010年、南インドのIndian School of BusinessでMBA取得。現在は東京光明寺に活動の拠点を置く。2012年、若手住職向けにお寺の経営を指南する「未来の住職塾」を開講。著書に『おぼうさん、はじめました。』(ダイヤモンド社)、『「こころの静寂」を手に入れる37の方法』(すばる舎)、『東大卒僧侶の「お坊さん革命」』(講談社プラスアルファ新書)、『お坊さんが教えるこころが整う掃除の本』(ディスカヴァー21社)、『脱「臆病」入門』(すばる舎)など。
仏教の経典には、ブッダ(お釈迦さま)がさまざまな仏弟子に仏法を説いた、たくさんのお話が収められています。出家のお坊さんに対しては私のような凡人には理解の及びがたい深い思想が雄弁に語られていますが、面白いことに、在家の信者に対してはまるで別人のように、非常に分かり易く直接的な事柄をお話しされています。
ブッダは相手に面しただけで、その人の心の状況が分かるのでしょう。相手のレベルに合わせて自由自在に言葉を繰り出し、どんな人でも必ずその人の「悟りのツボ」を押すわけです。これを対機説法(機、つまり人に合わせて法を説く)と言いますが、データベースなしのOne-to-Oneマーケティングというところでしょうか。
その経典の1つに、在家の若者に説いた「六方礼経」というお経があります。その中で、主人と使用人の幸せな関係を築くための方法が、とても具体的に説かれています。現代の私たちなら、上司と部下の関係と読み替えてもいいでしょう。言うなれば、仏教的リーダーシップ・フォロワーシップです。
まず、仕事です。待遇の問題以前に、仕事が面白くなければいけません。ここでブッダが指すのは「能力主義」とも違うと思います。仕事の種類に優劣をつけて、型にはめて競わせるのではありません。ひとりひとりが輝ける仕事を、その人の特性に応じて与えるのです。管理職向きの人もいれば、専門分野を研究することに打ち込みたい人もいるでしょう。どちらの方向を追求しても、その人をしっかり評価するということですね。ここには画一的な「成功者」の定義は見当たりません。
次に、人をきちんと処遇しましょう、ということ。人事評価のあり方はどの企業でも大きなテーマですが、2000年も前から人間社会は同じなのですね。仕事に見合わない給料を与えることは、未来に悪業を積むことにもなるでしょう。まず、部下の心に、怒りの感情を呼び起こします。さらに、もしもしっかりとした給料をもらっていれば起こらなかったであろう悪事(横領など)へと部下を駆り立てます。そのような悲劇を招かないためにも、ちゃんと給料を支払うことは上司の責任です。
部下がうつになりかけている時に「気合いの問題だ。あいつには気合いが感じられない」などと言って追い打ちをかけるのは論外ですが、「大丈夫? しばらく休んだ方がいいんじゃない?」などと親切にして気にかけている風を装って、部下が休職している間に帰るポストを無くしてしまうようなのもいけません。部下が病気になったら、ちゃんと元気になって戻ってこられるように、看病してあげましょう。付きっきりというわけにはいかなくても、時々お見舞いにいくなどして、心を支えてあげることが大切です。上辺のポーズではダメです。
上司は部下を幸せにするなら、給料を払うだけでは足りません。もちろん報酬をもって部下の仕事に報いるというのは大切ですが、それだけでは部下のやる気につながりません。ジャック・ウェルチのリーダーの心得にも、部下に対して「派手にお祝いする」という項目がありましたが、部下の成功はプライベートでもしっかりねぎらってあげましょう。
休暇もあげてください。無理な状態が慢性化すると、結局は長続きしません。「代わりならいくらでもいる」という使い捨て的な人の使い方をしていると、そのうち誰も付いてこなくなります。リーダーの仕事は、人を育てること。人は一朝一夕にできるわけではありません。一歩一歩、信頼関係を築きながら、長い目で部下を育てていきましょう。「ご縁」を大切にすることです。
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