ところが、あらためて糸井の周辺を取材してみると、どうも腑に落ちない言葉が方々から聞こえてくる。「実を言うと、糸井本人はメジャーリーグへの移籍にそれほど強い興味を抱いていない」というのだ。
「糸井は口でこそ『メジャー挑戦』と言っていますが、あれは彼の相談者による“入れ知恵”ですよ。もともと糸井は不器用な人間で、周りから何か言われると聞き流すことができないタイプ。そんな彼にメジャー移籍を促したのが相談者のX氏です。糸井の類稀な身体能力の高さに目をつけたメジャーの複数球団のスカウトたちが「彼はいつFAになるんだ?」と騒ぎ始めたのが、今から2〜3年ほど前。ヒザを叩いたX氏は糸井に『真の成功をつかみたいのならば、一刻も早くメジャーに行くべきだ』などと言葉巧みに接近し、そのための全面バックアップを約束して本人からの信頼を勝ち取ったのです」(糸井に近い関係者)
どうやら今回の騒動の裏側には、キーマン・X氏の存在があるようだ。X氏の助言に乗って入札制度による来オフのメジャー移籍を実現させようと代理人交渉に臨んだ糸井だったが、日本ハムとの話し合いは難航の末に最後はまさかの決裂――。交渉そのものを、X氏のルートから推奨された代理人にほぼ丸投げにしていた糸井には自業自得な面があるとはいえ、同情の余地もある。
相手とケンカしてでも目的を達成しようとする強気の姿勢から「剛腕」の異名を持つX氏とは対照的に、糸井は温厚で純朴な性格の持ち主。前出の関係者によれば「彼は交渉が暗礁に乗り上げ始めると、報道に出ているようなメジャー移籍は早々とあきらめた。入団当初はパッとしない投手だった自分を野手として再生させてくれた球団に恩義も感じていたので、とにかく早期決着を望み、春季キャンプへの参加を心待ちにしていた」という。
だが、もう「時すでに遅し」。X氏の息のかかった代理人と日本ハムの交渉は糸井の意思が反映されないまま、想定外の終着点を迎えてしまったのだ。「オリックス移籍が決まった後、糸井は人知れず栗山監督のもとを訪ねて号泣。電話を入れてきた某主力にも『こんなことになるなんて信じられない。チームを去ることになって申し訳ない』と泣きながら別れの言葉を口にしたそうです。彼の今回のトレードに対するショックの大きさを物語っているといえるでしょう」(前出の関係者)
X氏は過去に誰もが知る超大物日本人選手のメジャー移籍をやや強引な手法でありながらも成立させ、その後も代理人を務めた人物。前記したように「剛腕」ではあるが、そのほかにも現在まで数々の有名な日本人メジャーリーガーの代理人として日米の球界でも広く名前が知られている。
X氏側は日本ハムとの交渉でも、これまでどおりのやり方でメジャー移籍を勝ち取る算段だったのだろう。いずれにしても「クライアントである糸井との意思疎通が完ぺきにできていたのか」という点については、どうしても疑問が残るところだ。
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