犯人は「桜」を切ったのか? しなの鉄道伐採事件杉山淳一の時事日想(4/5 ページ)

» 2013年03月08日 08時01分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

犯人は「桜」を切ったのか?

 花の咲いていない、幹と枝だけの低い落葉樹。犯人は、どこにでもあるような雑木のひとつだと勘違いした可能性はないか。蕾はあったというが、それに気付かなければ枯れ木だと思ったかもしれない。

 そう思う理由は、私も樹木の知識にうといからだ。今は犬の散歩で公園に行き、桜を始めとしてさまざまな植木を知り、その四季の姿も知っている。しかし、犬を飼って、散歩に行くまでは樹木に関心がなかった。今だって、葉桜の時期に桜と楠の木の区別が怪しい。恥ずかしながら、花咲く時期に近くで見るまで、梅と桃と桜を確認できない。自分の知識のなさに情けなくなった。冬に列車に乗り、なんだか枯れ木が並んでいるな、という印象しかなかった景色が、春の車窓では桜で満開だったりする。

 犯人は「桜」と知って切ったのだろうか。犯人も、樹木に対する知識が乏しかったのではないか。しなの鉄道に問い合わせてみた。

 「公園だと、ソメイヨシノだとか、フジザクラとか、看板をかけますよね。あの桜には看板がありましたか?」

 答えは「いいえ」だった。

 私たちの感情をさかなでした「桜」について、犯人の「過失」の可能性がある。

 もちろん犯人を擁護するつもりはないし、しなの鉄道の配慮がないと言うつもりもない。なにしろあそこはしなの鉄道の敷地であり、立ち入りこそ法に反する。そんな場所に植えた木に、説明書きなど本来はいらない。

 でも、もし植樹の時に「◯◯年植樹 □□桜」とプレートを掛けていれば、そして犯人が桜に対して私たちと同じ感情を持っていたら、伐採の抑止力になったかもしれない。今からでもいいから、残りの桜にはプレートを掛けてあげてほしい。

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