“誰得”なの? 西武鉄道の「赤字線切り」が始まっている杉山淳一の時事日想(4/4 ページ)

» 2013年03月22日 08時01分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]
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今までの赤字ローカル線問題は情緒的すぎる

 しかし、この機会にビジネスという観点で鉄道を考え直すと、確かに日本の鉄道事業は公共性だの、交通弱者対策だの、メンタルな部分に引っ張られすぎているかもしれない。投資家としてみれば、地域の福祉のための鉄道事業は「地域の仕事」であって、ビジネスとして負担する必要はない。これも一理ある。

 実は、他の大手私鉄も赤字ローカル線問題に苦渋の決断を下している。前回紹介した近鉄伊賀線・養老線のほかにも、名古屋鉄道は1936年から閑散路線の廃止を実行しており、2000年代以降も三河線、揖斐(いび)線の末端区間、モンキーパークモノレールなどを廃止。大手私鉄の路線網第2位の座を東武鉄道に譲った。現在も広見線・蒲郡線・西尾線の末端区間について廃止を打診しつつ、運行が継続されている。京阪電鉄は2003年に京津(けいしん)線・石山坂本線の廃止を示唆した。

 サーベラスが西武鉄道をはじめとするグループ事業に対して、踏み込んだ提案を実施したことで、西武ホールディングス現経営陣との関係は悪化していると報じられている。サーベラスがTOBを成功させれば、山口線、西武秩父線、多摩川線の廃止を実行するだろう。もっとも、自らの手で廃止する必要もない。経営から切り離せば企業価値向上の目的を達成できる。鉄道路線自体は存続し、地元自治体や第三セクターの運営になるだろう。いや、もしかすると、またぞろBRTが持ち出されるかもしれないが。

 私の理想は、サーベラス以外の新たな、鉄道事業に理解のあるパートナーとの資本提携だ。例えば東急はどうだろう。長年のライバルだった阪急と阪神が組んで、阪急阪神ホールディングスが設立されたように、長年にわたって伊豆や箱根で競争してきた西武と東急が組んでくれたら……まあ、鉄道趣味人の妄想かもしれないが。

 大手私鉄は関連会社で不動産という高付加価値商品も売るため、イメージ戦略が上手だ。だからもうかっていそうな印象を与える。しかし実は赤字路線を抱えて苦労している。今回の事例は、それを改めて気付かされた。

名鉄三河線の末端区間(2004年廃止)はディーゼルカーで運行されていた
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