礼讃される米メディアって本当にすごいのか?伊吹太歩の世界の歩き方(2/3 ページ)

» 2013年03月28日 08時00分 公開
[伊吹太歩,Business Media 誠]

米メディアだって政府にお伺いを立てる

 こんな誤解もある。「米メディアは、政府には屈しない」というものだ。福島の原発事故では日本メディアのその部分がかなり批判された。ただ米国でもそれは同じで、大統領の行動など、発表する際に規制がかかるものがある。「〜日の〜時までは報道を禁じる」といった指示もあるし、オフレコだってある。

 米国では基本的に国家の安全保証が脅かされると考えられる場合には、表現の自由が「制限」される。例えば米AP通信社をはじめとする数多くのメディアが、国際テロ組織アルカイダの最高指導者だったウサマ・ビンラディンの死を証明する証拠の遺体写真やDNA情報などを情報公開法にのっとり開示するよう連邦裁判所に何度も訴えているが、いずれも却下されている。

 数年前には内部告発サイトのウィキリークスが大量の外交公電を暴露して話題になった。情報を漏洩した兵士は最近、罪状認否で有罪を認めたが、その情報をウィキリークスから事前に受け取っていたニューヨークタイムズ紙は、記事を掲載する前に、政府にそれを見せ公表の是非を相談していた。日本で同じことが起きればネット上で炎上する可能性は高い。

何よりも米メディアの偏向ぶりはひどい

 そして何よりも、米メディアの偏向ぶりはひどい。大手メディアは政府からのリーク情報を取り上げて政府の公報的な報道をしてしまっているケースも少なくない。最近では内戦が続くシリア情勢について、アサド政権を崩壊させたい米政府高官による明らかなリーク情報やコメントだけで、検証もないアサド非難の記事がよく見られる。

 中国の脅威論もそうだ。最近話題になった中国のサイバー部隊に関する民間企業の報告書を基にした報道も、実際にはその調査の裏にCIA(米中央情報局)がかなり大きな役割を果たしたとの話を聞いている。脅威論が高まれば、政府の予算審議にも有利だからだ。

 こうした実情に加え、最近ではネットの普及で、米メディアの状況はかなり悪化しているようだ。現在、米国のジャーナリストの間で話題になっているブログの記事がある。元新聞記者が、記者から足を洗い、「堅気」になった理由を書いたものだ。その記事からは、米メディアの悲しき現状が見える。

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