紙袋をやめて、7万2000円の商品が返却された――パタゴニア、4つのコアバリューとは気鋭の経営者に聞く、組織マネジメントの流儀(1)(4/6 ページ)

» 2013年04月12日 12時00分 公開
[Business Media 誠]

だって紙袋はやめたんですから

辻井:かつて私が渋谷店でパートタイムスタッフとして働いていたとき、こんなことがありました。あるカスタマーが、「アイスナインジャケット」という防水透湿性が最高レベルのシェル(ジャケット)を購入されたんです。当時の価格で7万2000円もしました。そのころ、日本支社では森林皆伐の問題に取り組んでいて、製品を買っていただいた際に使用する紙袋の提供をやめることにしたんです。だから、私は当然のように紙袋を提供しないことを伝えて、ジャケットをそのまま渡そうとしました。

 すると、そのカスタマーは「こんなに高いジャケットを買ったのに、袋に入れないのか!」と気分を害して返品された。当時の私はカスタマーサービスの基本も分からず、単純に「だって、紙袋はやめたんだから」と考えていました。

中土井:すごい(笑)。

辻井:すると、その人はさらに「そもそも雨が降っているじゃないか」と言うわけです。私は生意気にも「(完全防水なんだから)着て帰ったらどうですか?」と言ってしまったんです。

 今のスタッフから見れば「考えられない!」と思うでしょうね。当然、そのカスタマーは怒って、結局ジャケットを返品されました。「これはヤバい! マネージャーに怒られる」と思いました。

 その日の終礼で「今日の辻井さんのカスタマーサービスについて話し合おう」ということになったので、ますますヤバいと(笑)。ところが、あるスタッフが手を挙げて「あれはあれで意味があったと思います」とか言うんですよ。

中土井:ほー。

辻井:あのカスタマーが将来、「生意気な奴が、7万円もの売り上げがなくなるっていうのに袋一個くれなくてケンカをしたよな」と思い出し、それがきっかけで森林伐採や環境について考えてくれるかもしれない、と。大学生のパートタイムスタッフが、「(環境への意識が低いイメージのある)渋谷に店を出した理由を考えると、こういったことも渋谷店の使命の1つだと思う」と言うのでびっくりしました。

 ただ、マネージャーは「あの行動がベストだとは思わない」と言ってましたけど(苦笑)。当時、マイバッグのないカスタマーには、スタッフが家から使い古しの紙袋に製品を入れてお渡しする取り組みも行っていました。なので、このケースでも事情を説明して「次回からはショッピングバッグやザックをお持ちいただけるとありがたいです」と言うのがベストだったのではないかという話になりました。

中土井:辻井支社長の原体験ですね。コアバリューで判断をし、行動に一貫性を持たせている。周りがどうこうではなくて、自分たちの信念を貫いたわけですね。

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