紙袋をやめて、7万2000円の商品が返却された――パタゴニア、4つのコアバリューとは気鋭の経営者に聞く、組織マネジメントの流儀(1)(5/6 ページ)

» 2013年04月12日 12時00分 公開
[Business Media 誠]

創業者イヴォンも「有言実行」

「KEEP THE COUNTRY COUNTRY!」と書かれたTシャツ

辻井:「有言実行」でいうと、最近、パタゴニア創業者イヴォン・シュイナードの行動を目の当たりにしたエピソードがあります。パタゴニアのコアバリュー(理念)のひとつである「環境主義」にまつわることです。

 昨年秋ごろ、ハワイのハレイワストアに行った際に、イヴォンと店内のソファに座って話していました。そこへストアのマネージャーが、ある青年を連れて来ました。話を聞くと、彼はニューヨークのロースクールで弁護士の資格を取り、地元に戻ってからは地域を守る消防士になり、「KEEP THE COUNTRY COUNTRY!」という環境NPOのリーダーもしていることが分かりました。

 ハワイのオアフ島では、ワイキキのある島の南側は「タウン」、大きな開発の手が入っていない島の北側、ノースショアは「カントリー」と呼ばれています。ノースショアでは、稀有な自然環境を守るために複数の環境NPOが存在していて、彼らの努力もあって、ホテルなどの開発事例は一軒もありません。ノースショアがカントリー(田舎)であるために、その青年も活動しているというわけなんです。

中土井:なるほど。その彼とイヴォンとの間にどんなエピソードが生まれたんですか?

辻井:彼は「ハレイワストアが集会のときに場所を貸してくれたり、環境助成金を渡してくれたりしたおかげで活動ができています。パタゴニアには心から感謝しています」と言いながら、手に持っていた団体名の入った帽子やTシャツの入ったトートバッグをイヴォンにプレゼントしようとしたんです。すると、イヴォンは立ち上がって、こう言いました。

 「あまり失礼なことはしたくないんだが……今、私自身はできるだけシンプルに生きようと努力しているんだ」と言いました。イヴォンの人となりをよく理解しているその青年は、一旦クルマに戻り、トートバックの代わりに団体の資料だけを持ってきました。イヴォンは「Tシャツもたくさんプレゼントされて生涯着る機会がないほどあるから、受け取れない」と伝えました。こんなことなかなか言えません。「なかなかカッコいいTシャツだな」などと考えていた自分を恥ずかしく思いながら(笑)、「ああ、コアバリューってこういうことなんだな」と思いました。

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