「障がい者主体」ではなく「お客さま主体」――スワンベーカリー・海津歩社長社長インタビュー(2/3 ページ)

» 2013年05月17日 11時55分 公開
[「月刊総務」編集部]
月刊総務

編集部 確かにそうですね。ちなみに、障がい者を雇用する場合、都道府県の労働局長の許可を受けることで個別に最低賃金法の適用除外とすることも可能ですが、貴社では全く行っていないと聞きました。

海津 障がい者が多く働く店ですが、それを売りにするようなことはしませんし、行政の支援もあてにしません。あくまでも、“おいしいパンを売るお店”でありたいのです。当社で雇用している従業員は、障がい者であろうとも重要な“戦力”。給与も最低賃金法で定められた以上を払っています。

障がい者は「できないことが顕在化している人」、健常者は「できないことを隠している人」

編集部 現在、多くの企業では多様な人材を雇用する動きが強まっています。障がいのある方を雇用する際、また健常者と一緒に働く際に大切なことは何でしょうか。

海津 障がい者は「できないことが顕在化している人」、健常者は「できないことを隠している人」ととらえることができると思うんです。できない部分は、仲間が助ける。どうしたらその人がこの仕事をできるか、その方法を考える。つまり、「同情」ではなく、「共感」することが大切だと考えます。そうすることで、周りや会社に対し「信頼」が生まれていく。悲しいことに、これが今の世の中には不足していると感じていますが。

編集部 障がい者に対し、必要以上に特別視する必要はないということですね。

海津 一般的に、障がい者は効率で劣る、といわれています。また、何かものごとを習得するまでに少し時間がかかるだけです。しかし、反復作業に優れていますし、健常者が行うであろう、手抜きもありません。当社の場合、最大のリスクは食中毒ですが、皆きちんとルールを守り清潔を心掛けてくれるのでその心配もありません。面従腹背がなく、自分の気持ちを素直に表に出してくれるのでかえって信頼しやすいのです。

編集部 なるほど。

海津 もう少し具体的なことを申しますと、当社の場合、障がい者に対しては、「初日にほめる」「指示を控える」ということを意識して行っています。障がい者は、自己否定の塊で育ってきている人が大半。だから、あえて初期の段階でほめることで彼らは「今の自分でいいんだ」と自己肯定することができます。それが自信につながり、その後の成長にも大きく影響します。そして、「指示を控える」というのは、自発的な意思決定力を引き出すために大切なことです。

編集部 教わったり、指示で動くのではなく、自分の判断で仕事ができるようになることが成長につながるのですね。

海津 そのために、仕事の与え方がポイントとなります。仕事を単純化、パターン化、細分化して彼らが取り組みやすくします。また、低めの目標をたくさん設定して成功体験の喜びを多く感じてもらうようにしています。あと重要なのは、「仕事をきちんと任せる」ことです。

編集部 どういうことなのでしょうか?

海津 要は、健常者がいちいち隣でチェックしない、ということです。以前、健常者の社員がチェック係として障がい者の社員のそばに張り付いていたことがありましたが、それをやめてもらいました。特に業務に支障は出ませんでしたし、それどころか、その社員の意識が「仕事をやらされていた義務感」から「仕事を任されたという使命感」に変わったことで、自分が休んだときのことを心配できるようにまでなったのです。

編集部 健常者の方は別の作業ができるし、経営上のコスト削減にもつながりますね。

海津 そうですね。当社では障がい者も重要な戦力としてみなしている以上、「つらかったらいつ休んでもいいよ」と甘やかすこともしません。それぞれの体調などを考えてシフトを組んでいるのだから、簡単に休んで仕事に穴をあけてもらっては困る、というスタンスなんです。

銀座のスワンベーカリーでは、障がい者と健常者が一緒に働いている

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