アップルの聴き放題サービス「iTunes Radio」は、音楽制作者を殺すのか(2/4 ページ)

» 2013年06月14日 08時00分 公開
[山崎潤一郎,Business Media 誠]

破壊的イノベーションから生まれた無料聴き放題型のストリーミング

 筆者もそうだが、「ダウンロード販売」という新しいビジネスモデルは、ある意味、簡単に理解できた。CDという入れ物が楽曲データを格納したファイルに置き換えられ、物流がネットに、そしてリアルCDショップがiTunes Storeに置き変わっただけのことで、ビジネスのスキームそのものは何も変わっていない。つまり、テクノロジーの進化に伴う、パッケージビジネスの延長線上にある持続的イノベーションに過ぎなかった。強いて言えば、アーティストや原盤権者への分配率が変化したくらいだ。

 むしろ「中抜き」を実現した音楽制作者の中には、この持続的イノベーションの恩恵をうけてパッケージだけの時代より収入が増えた例も多かったのではないだろうか。例えば、自社(自分)で原盤権を100%保有している場合、表のように流通コストならびにレコード会社の経費(プレス代を含む)がなくなることで、1アルバム当たりの収入が増加する。

配信音楽の売り上げ ダウンロード販売によって2700円のアルバム価格が1429円と大幅下落しているのにもかかわらず、原盤権利者の収入は増えている。流通コストならびにレコード会社の経費(プレス代を含む)が中抜きされるからだ。ここで紹介した形態は一部の例であり、レコード会社が原盤を保持していたり、別に原盤権者がいる場合など、制作費の持ち分や契約条件などにより、分配の数字は異なることをご了解いただきたい

 だが、無料聴き放題型のストリーミングは、これまでの音楽ビジネスの概念とはまったく異なる仕組みや考え方の上に構築された破壊的なイノベーションだ。だから、考え方を一度リセットしなければ、パッケージメディア型のビジネスで育ってきた人間には理解しがたい部分も多い。「いや、単なる広告モデルでしょ」という反論もあろうかと思うが、曲やアルバムという単位で提供するコンテンツへの対価として収入を得ることが当たり前だったところに新たに登場した未知の仕組みだけに、不安になるのは当然だ。

 表の例でも分かるように、従来型であれば、1曲(アルバム)売れたら「誰と誰が何パーセント抜いて、原盤権者には、いくらの収入」と、頭の中で簡単にシミュレーションを行うことができた。だが、Spotifyからの収益については、分配の仕組みや方法論がブラックボックス状態だ。このあたりも無料聴き放題型が、音楽制作者の不安をあおり立てる一因であろう。

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