米ネット監視システム「PRISM」を暴露した人物、実は中国のスパイかも?伊吹太歩の世界の歩き方(3/4 ページ)

» 2013年06月20日 08時00分 公開
[伊吹太歩,Business Media 誠]

米国は中国のサイバー攻撃を非難できなくなった

 米メディアでは、今回米政府の極秘プログラムの1つであるこの情報を暴露したスノーデンが、英雄か、はたまた国家の裏切り者かという議論になっている。そもそも、スノーデンという人物はいったい何者なのか。

 29歳のスノーデンはノースカロライナ州出身で、高校は中退。2003年から米軍に入隊するが、足を骨折してすぐに除隊。その後はNSAの警備員を経て、CIAでITセキュリティーの仕事を得る。CIAを辞めた後はNSCの協力企業職員として、在日米軍基地でも勤務した。その後、ハワイのNSA施設で契約職員として勤務した。

 スノーデンは、ハワイのNSA施設からUSBメモリを使って、情報を盗み出した。そして2013年5月、彼女とNSAに数週間休みを取ると告げて、香港に飛んだ。そこでメディアに極秘プログラムについてリークしたのだった。

 スノーデンは、米国が組織的にハッキングや監視の網を広げていることに警鐘を鳴らすために暴露を決意したと語っている。米政府の行き過ぎた行為に一石を投じる素晴らしい正義感ではあるが、ただ現実には、この暴露で最も喜んでいるのは中国だろう。

 6月7日にバラク・オバマ米大統領と、中国の習近平国家主席がカリフォルニア州で首脳会談を行ったばかりだが、その会談では両国がずっと非難し合ってきたサイバー攻撃が議題に上った。米政府はしつこいほど、中国が米国政府や企業を狙ってサイバー攻撃を仕掛けてきたと非難してきた。

 一方で中国側はずっとサイバー攻撃の中国犯人説を否定し、首脳会談でも習は「中国はサイバー攻撃の被害者だ」と主張。その発言に、世界中のサイバー関係者があきれて笑ったものだ。

 だが、スノーデンは、NSAが中国と香港のコンピューターに対して何百件というハッキング作戦を2009年から行っていたとも証言し、対象になった中国や香港のIPアドレスなどを香港の英字紙サウス チャイナ モーニング ポストに提供した。つまりスノーデンの暴露が、習の発言を証明することになったのだ。中国が、ほくそほほえんでいるのは間違いない。

 もう米国はサイバー攻撃について、一方的に中国に対して強く非難しにくくなる(ただ中国が盗んでいる情報は軍事や産業のもっと機密性の高い情報だとの指摘もあるが)。

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