開通から70年……山陽本線関門トンネルの“寿命”が近づいている杉山淳一の時事日想(2/5 ページ)

» 2013年07月12日 06時00分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

日中の3時間は単線運行で保守に当たる

 関門鉄道トンネルは何カ月も通行止めにするわけにはいかない。他の路線の事例では、奥羽本線において山形新幹線に向けた改良工事で長期間の運休があった。ただし、この区間を走る旅客、貨物の長距離列車は他の路線に迂回できた。しかし、山陽本線の関門トンネルには迂回路がない。長距離旅客については新幹線を経由してもらえばいいけれど、貨物列車は止められない。国道トンネルは片側1車線しかなく、各駅停車の乗客をすべてバスに振り替えるわけにもいかない。

 では、関門鉄道トンネルの修繕はどうしているか。朝夕のラッシュ時の隙間、午後の3時間ほどを“片側交互通行”として、ほぼ毎日の点検と修繕を繰り返し、やっとのことで維持している。その苦労は列車ダイヤを見ると分かる。列車ダイヤは横軸に駅、縦軸に時間を使い、列車の動きを斜めの線で示している。右上がりが上り列車、右下がりが下り列車だ。駅間で列車の線が交差するとすれ違いとなる。

 関門鉄道トンネルがある下関と門司の間を見ると、11時45分ごろに下り普通列車と上り貨物列車がすれ違って以降、15時45分ごろに普通列車同士がすれ違うまで、すれ違いが起きていない。この時間は線路1本で列車を運行し、未使用の線路のほうで修繕作業を実施している。関門鉄道トンネルは複線に見えて、実は単線を2つ並べた信号システムになっている。だからそれぞれの線路を独立して運用できる。

 戦時中につくった施設が70年以上も持ちこたえるなんて、地上の建物でも珍しい。日本は建設技術も優れているが、修繕技術だって世界に誇れる。とはいえ、やはり限界が近づいている。トンネルは常に浸水が起きるので、ポンプで汲み出している。特に海底トンネルは塩水に侵食されるため、鉄板で覆った部分も腐食する。そろそろ新しいトンネル、または橋が必要だろう。常時すれ違いができたほうがいいにきまっている。受け皿に制約があったらモーダルシフトどころではない。

関門鉄道トンネルの列車ダイヤ。黒い線が普通列車、黄緑色が貨物列車。11時40分から15時40分まですれ違いが行われていない(列車ダイヤ描画ソフト「Oudiaにて作成」)
関門鉄道トンネル専用の機関車EF30。塩水による腐食を防止するため、ステンレス製の車体が採用された

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