“アンチ・エイジング”は迷惑だINSIGHT NOW!(1/2 ページ)

» 2013年08月09日 16時00分 公開
[川口雅裕,INSIGHT NOW!]
INSIGHT NOW!

著者プロフィール:川口雅裕(かわぐち・まさひろ)

イニシアチブ・パートナーズ代表。京都大学教育学部卒業後、1988年にリクルートコスモス(現コスモスイニシア)入社。人事部門で組織人事・制度設計・労務管理・採用・教育研修などに携わったのち、経営企画室で広報(メディア対応・IR)および経営企画を担当。2003年より株式会社マングローブ取締役・関西支社長。2010年1月にイニシアチブ・パートナーズを設立。ブログ「関西の人事コンサルタントのブログ


 エイジング・ビーフが流行している。20日以上も低温で熟成させた牛肉は、アミノ酸が豊富で旨味も香りも味わいも豊かになるそうで、それを食べさせるステーキ店や焼肉店が増えている。また、ウイスキーを樽の中に長期貯蔵するのも、ワインを熟成させるのもエイジングと呼ばれる方法だ。工業製品でも、部品や油がなじんだ状態で出荷しないと設計通りの性能が発揮できないことがあるので慣らし運転を行うが、この工程もエイジングというらしい。楽器の世界でエイジングというのは、本来の音色や響きが出るように弾きこむことだ。

 このように使うとき、エイジングという言葉にネガティブな感じはまったくない。時間の経過、慣らし運転、弾きこみによって古くはなるが、それによって価値が出る、新しいときにはなかった良さが生まれるというポジティブなニュアンスである。つまり、エイジング(Aging:加齢、年をとること)はそもそも、老化や衰えを意味していない。現在、一般にはエイジングは単なる老化、衰えと捉えられ、アンチ(抵抗、反対、否定)の対象とされているが、それはあまりに一面的なのである。

 人にも年を取ればとるほど価値が出てくる部分があるはずだ。例えば、若いころに取り組んだ仕事やスポーツなどを振り返って、今ならもっとうまくできたのに……と思うことは誰にでもある。それは単なる後悔でなく、そのころにはなかった知恵や視点、視野を身に付けたからこそ湧き出る感情で、エイジングによって成長した証と言えるだろう。職場には、成功と失敗を積み重ね、歴史を身をもって知っており、だからどう進めるべきか、何に気を付けるべきか、その先にどんなことが起こりそうか、が見える人がいる。いわゆる年の功というものだが、これもひとつのエイジングの価値である。

 今どきのアンチ・エイジングは、そのような成熟・成長という面まで否定してしまっているようだ。もちろん、見た目の年令と肉体の年令を維持しようとするのは悪いことではない。若々しく見えたい、元気で健康でいたいという欲求は皆にある。しかし、暦の年令(実際の年令)を忘れたいかのようにアンチ・エイジングにまい進し、若々しく健康でいることだけが自慢であるような姿は、やや滑稽だ。若々しいのはいっこうに構わないが、年相応の知恵を授けてほしいし、教養や矜持が感じられる振る舞いや言動を見せてほしいし、年長者らしい高く広い視点でものを語ってもらいたい、というのが周囲の期待であるからだ。

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