「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”」
「PC16」という言葉があるそうだ。PCとはPost Chinaを指す。中国の後継者となるような16の国ということだ。
こうした言葉が出てくるのは、中国が新興国の「代表選手」である時代は終わったという認識が広まっているからだ。理財商品の拡大に伴って中国経済の「バブル崩壊」に懸念が高まっているからだけではない。むしろ中国が低賃金労働力を背景にした「世界の工場」という経済構造を変革できるかどうかに関心が高まっていることを意味している。そしてその課題はあまりにも大きくてなかなか成果が出ないだろうという基本的な認識がある。
もともと新興国の代表選手を「BRICs」と名付けたのは、米投資銀行ゴールドマンサックス(GS)の2001年のリポートだった。そして同社は2005年に「NEXT 11」という言葉もつくった。それは韓国、バングラデシュ、エジプト、インドネシア、イラン、ナイジェリア、パキスタン、フィリピン、トルコ、ベトナム、メキシコである。要するにBRICsに続く次の11カ国だ。
確かにBRICsは成長力が衰えている。中国は外資の直接投資頼みという体質があまり変わっていない。つまりこれまでの「高度成長」は、安い労働者を雇って競争力を高めることを狙った多くの外資のおかげだった。その意味では賃金が高くなれば競争力が落ちることははっきりしている。ロシアは資源の価格に左右される経済構造は変わっていないし、これまでの工業化計画も今のところ進展はあまりない。ブラジルやインドはインフレ懸念と貿易収支の悪化で通貨安、株安に見舞われている。とりわけインドは、経済成長を継続するための構造改革がなかなか進まない。
日本も戦後の成長期の中で、構造改革を進めてきた。戦後間もないころ、日本製品は「安かろう悪かろう」といわれたものである。つまり欧米に比べて低賃金を売り物にして衣料や玩具などを売って、国の経済を支えてきた。ただ戦争で大きな傷は受けたとはいえ、日本には明治維新以来培ってきた工業力(製鉄、造船といった重工業など)があった。だからある程度の蓄積ができれば、産業が高度化しやすかったということができる。
中国がこうした高度化路線をうまくコントロールできるのかはまだ分からない。必ず社会的な摩擦が生じるからである(日本の戦後経済でいえば、炭鉱のストライキに代表される労働争議だ。それまでの主力産業が新しい産業に変化するときには失業などの社会的問題が発生する)。すでにその芽はあるが、中国で労働争議やそれに伴う社会不安が大きくなれば、世界の工場としての地位を失う動きが加速される。そうでなくても、賃金の上昇は不可避だから、やがてどこかの国が中国の後継者になる。
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