なぜ豪華列車「ななつ星in九州」に傷がついたのか杉山淳一の時事日想(2/4 ページ)

» 2013年10月11日 08時00分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

電柱との接触で分かった「大きさ」と「乗り心地」

 電柱との接触事故は9月の試運転中に起きていた。長崎本線の肥前麓駅の構内にあった架線柱と接触し、ななつ星in九州の車体に15メートルの傷がついた。原因は架線柱の位置が規定より約30センチメートル線路側にあったためだ。鉄道施設は線路や車両の通過予測サイズから離して設置する。その隔たりを「建築限界」という。電化路線の架線柱、信号機、標識、ホームなどは、建築限界の外に設置されている。

建築限界より車両限界はひと回り小さい(出典:JR九州)

 JR九州のその後の調査で、同社の路線には75カ所の規定違反があったという。これを「JR北海道に続きJR九州もか」という論調がある。もちろんよくないことだけど、JR九州の場合はJR北海道の一連の不祥事と同列にしては気の毒かもしれない。というのも、建築限界の測定は、新路線の開通、電化、複線化など線路改良の時に実施される。どの鉄道会社でも定期的な検査はまれだ。「設置した施設は動かない」という前提だからである。

 建築限界の測定は、古い客車を改造し、周囲にトゲトゲを設置した通称「オイラン車」で行われる。最近は電子センサーを使った車両もあるようだ。一度測定されたあとは、運転士が業務中に危険箇所を発見次第報告する。施設は動かないとしても、樹木の枝などが伸びてくる場合があるからだ。しかしこれもすぐに伐採されない。ローカル線に乗っていると、車両の窓を枝が叩く様子をよく見かける。最近の車両は窓が開かないから、そのあたりはとても緩いといえる。もっとも、これは危険に対するマヒと言えなくもない。線路改良の時だけではなく、台風などで不通になった時、運行再開時には測定してもらいたい。

 ところで、今回の「ななつ星in九州」で興味深いところは、「いままでは規定違反でも、他の車両が問題なく通過できたところで、なぜ『ななつ星in九州』に傷がついたのか」である。これはとても単純な話で、「ななつ星in九州」の客車がビッグサイズだったからだ。また、乗り心地を良くするために柔らかなサスペンションを使っており、カーブの内側で車体が傾きやすかった。

 長崎本線の他の車両は限界より小さめに作ってあるため、いままでは接触しなかった。つまり、今回の事故は、はからずも「ななつ星in九州」の客車の広さと乗り心地を証明したとも言える。もちろんこの件は不祥事でありJR九州は改良工事に着手している。今後はこうした事故はナシにしてもらいたい。硬いモノと車体が擦れる音は気持ちのよいものではない。

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