「クールジャパン」は100年続くか?中村伊知哉のもういっぺんイってみな!(38)(1/2 ページ)

» 2013年10月24日 08時00分 公開
[中村伊知哉,@IT]

中村伊知哉(なかむら・いちや)氏のプロフィール:

慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授。京都大学経済学部卒業。慶應義塾大学博士(政策・メディア)。デジタル教科書教材協議会副会長、 デジタルサイネージコンソーシアム理事長、NPO法人CANVAS副理事長、融合研究所代表理事などを兼務。内閣官房知的財産戦略本部、総務省、文部科学省、経済産業省などの委員を務める。1984年、ロックバンド「少年ナイフ」のディレクターを経て郵政省入省。通信・放送融合政策、インターネット政策などを担当。1988年MITメディアラボ客員教授。2002年スタンフォード日本センター研究所長を経て現職。

著書に『デジタル教科書革命』(ソフトバンククリエイティブ、共著)、『デジタルサイネージ戦略』(アスキー・メディアワークス、共著)、『デジタルサイネージ革命』(朝日新聞出版、共著)など。

中村伊知哉氏のWebサイト:http://www.ichiya.org/jpn/、Twitterアカウント:@ichiyanakamura


※編集部注:本記事は2013年10月21日に@IT「中村伊知哉のもういっぺんイってみな!」で掲載された記事を転載したものです。

ポップカルチャー振興予算は是か非か

 コンテンツ政策への風当たりは、特に「予算」に向けられることが多い。「血税を使うな」というわけだ。業界に補助金を与えることで、「間違ったところにカネが流れ、ダメやヤツを温存してしまう」といった批判だ。筆者も産業保護には反対で、業界対策の予算にはナーバスだ。

 産業支援措置として発動するなら、「アナウンス(旗振り)」「規制緩和(電波開放や著作権特区)」「減税」だ。それが民間の自主的行動にインセンティブを与えることではないかと考える。

 だが、インフラ整備(デジタル環境)や人材育成(教育)にはカネを掛けていい。道路予算(今は減ったものの、少し前まで10兆円ほどあった)の1割を文化と教育に回せれば、たちどころに状況は変わる。地方高速道路の車線を増やすより、知財の生産力を高める政策に重点投資してもバチは当たるまい。

 20年ほど前、IT政策の予算が強化され始めたころ、「道路より通信網」の主張はある程度通じた。日本をブロードバンド大国にした一要因だ。しかし、コンテンツ政策はそうならない。ポップカルチャー政策を強化しようというと、ポップ好きの人たちから「バーカ」といわれる。それでは強化されない。

予算配分の「目利き」と大衆文化

 それは、予算にしろ規制緩和にしろ、どこにどう政策資源を配分するかの「目利き」が国民やファンから信頼されていないせいもあるのだろう。「コンテンツの良しあしを政治家や官僚が判断できるわけないだろう」というわけだ。ごもっとも。審議会のような権威の集まりというのも白眼視されがちだ。「みんな」が作り上げるポップカルチャーは、「みんな」が考えるのがいい。参加型の政策が求められているのだと思う。ただ、それは政府が一番苦手とするやり方だ。本気で腹を据えないとムリだ。

 20年ほど前、政府にコンテンツ政策を打ち立てようと企てた郵政省「メディア・ソフト研究会」に招いた三枝成彰委員が発言したことを今も覚えている。

こういう政策は、本気で100年やり続けるか、何もやらないか、どちらかだ

 「ポップカルチャー? 政府は何もするな」。そういう声をよく聞く。でも筆者は「政府は本気で100年やり続けろ」と言いたい。

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