かなり厳しいことを書いたが、筆者はTizenの存在意義がまったくなくなってしまったとは考えていない。Tizenにとっての不幸であり、計画全体の失敗だったのは、先進国市場で今さらiOSやAndroidに対抗する「第3のOS」になろうとしたことだ。逆説的に言えば、"そこ以外"になら、新たなスマートデバイス向けOSを受け入れる余地はある。
例えば、Tizenとほぼ同時期に登場したMozilla社のスマートデバイス向けOS「Firefox OS」は、新興国向けのとても廉価なスマートフォンやスマートテレビに活路を見いだそうとしている。今年のCESではパナソニックがFirefox OSを搭載したスマートテレビを発表するなど(参考記事)、その芽吹きはすでに始まっている。これらの領域は先進国のスマートフォンやタブレット市場ほどAppleやGoogleの支配が進んでおらず、両社といきなり正面から競合せずに済む。
そしてもうひとつ、新興のスマートデバイス向けOSにとって注目なのが自動車市場だ。
クルマのIT化は止まることのない潮流となっており、そこで重要なパズルのピースのひとつになるのが、クルマ向けのスマートOSである。ここでは2013年にAppleが「iOS in the Car」というコンセプトを打ち出すほか、今年1月にGoogleはGM、Audi、本田技研工業ホンダ、ヒュンダイなどともに「Open Auto Alliance(OAA)」を発足させた。しかし、自動車業界はIT業界に比べると奥が深い産業であり、オープンソースを活用しつつ内製化を重視するという考え方が強い。そのためAppleやGoogleであっても市場を一気にさらうことは困難だ。TizenではLinuxベースの車載情報機器向けプラットフォーム「Tizen IVI」も開発しており(参考記事)、ここにはトヨタ自動車が注目・参加している。クルマ向けスマートOSはこれから本格的な開発・普及段階に入る領域であり、ここもまた決定的な勝者がいないのが実情だ。
先進国のスマートフォン市場やタブレット市場だけ見れば、その趨勢は明らかであり、今さら新興勢力がつけいる余地は小さい。しかし世界の「スマート化」は、スマートフォンやタブレットの上だけで起きているわけではない。Tizenに希望があるとすれば、むしろそういった「今はまだ小さな市場」の方だろう。
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