信楽高原鐵道ほど不幸が続いた地方鉄道も珍しい。この鉄道路線の歴史を語る上で、避けて通れない事故がある。1991年5月14日に発生した列車衝突事故だ。第3セクターの信楽高原鐵道が発足して4年目。沿線の信楽町で開催されていた「世界陶芸祭」に向けたJR西日本直通の京都発信楽行き臨時列車と、信楽発貴生川行き普通列車が正面衝突した。普通列車側の車両1両が、後部車両と臨時列車に挟まれ押しつぶされるように破壊。死者42人、重軽傷者614人の大事故となった。
原因は、当時、列車のすれ違いのために設置されていた小野谷信号場の信号機故障と信号無視とされた。この信号場は世界陶芸祭で列車の運行本数を増やすために作られた。ただし、運用にあたって、JR西日本、信楽高原鐵道の双方が無許可で信号機を改造し、しかも相手方に情報を伝えていないなどずさんな管理が問題となった。信楽高原鐵道で2人、信号設備会社の1人が執行猶予付き有罪となった。
JR西日本も責任を問われた。なぜなら、小野谷信号場関連の信号設備工事については、JR西日本が信楽高原鐵道に委託されて実施したからだ。また、車両だけではなく、乗務員も貸し出していた。一般的に列車乗り入れ運行は車両のみ相手方に貸し出される。JR西日本と信楽高原鐵道の直通運転は、JR西日本の関与が大きかったのだ。しかし、JR西日本側は直接的な原因に結び付かないとして起訴されなかった。
世界陶芸祭は、信楽町(当時:現在は甲賀市に含む)に建設された「陶芸の森」のオープンを記念して企画された。まだバブルの余韻が残っていたころだ。信楽町や滋賀県は、世界陶芸祭を毎年の行事とし、世界にアピールしていくつもりだった。それは信楽高原鐵道の観光輸送増強にもつながる。一石二鳥のプランでもあった。
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