たび重なる悲運を乗り越えて前へ進もう 運行再開の信楽高原鐵道に期待杉山淳一の時事日想(3/5 ページ)

» 2014年11月28日 08時00分 公開
[杉山淳一Business Media 誠]

チャンスのはずが、さらなる負債増へ

 信楽高原鐵道にとっても世界陶芸祭はチャンスだった。しかし、事故を重く見た主催者は世界陶芸祭を中止。その後も開催されていない。信楽高原鐵道としては、輸送力増強のための信号場建設関連費用は回収できず、社員を失い、事故の遺族への補償も必要となった。信楽高原鐵道はチャンスを失うばかりか、巨額の負債を抱えてしまった。

 さらに、刑事事件としては起訴猶予となったJR西日本が、自己の責任は信楽高原鐵道側にあるとして、JR西日本が遺族に補償した金額の9割について、信楽高原鐵道、滋賀県、甲賀市に請求する訴訟を起こした。この訴訟で滋賀県、甲賀市の請求は退けられたが、信楽高原鐵道の負担はさらに25億円も増えた。ただし、本件は2011年にJR西日本が債権を放棄している。訴訟に置いて信楽高原鐵道が責任を認め、JR西日本の主張が認められた時点で、JR西日本は良しとしたようだ。JR西日本としても信楽高原鐵道の破たんを避けたかったと報じられている。

 2012年2月、信楽高原鐵道は自力再建不可能と判断し、甲賀市に対して公設民営化(上下分離)を提案した。さらに信楽高原鐵道が負担する遺族補償金について、滋賀県と甲賀市が貸し付けた金額の放棄または減額の調停を申し立てた。2013年2月、滋賀県と甲賀市は債権放棄を受諾。公設民営方式も了承し、2013年4月から上下分離され、信楽高原鐵道は再生、新たなスタートを切った。

 ……その半年後に台風18号が鉄橋を流した。本当に気の毒な鉄道である。

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