当面、ユーロがどう動くにせよ、1999年1月に導入された統一通貨が根本的な矛盾を抱えていることを忘れてはなるまい。ユーロ圏18カ国は要するに逃れられない「固定相場」で縛られているということだ。ユーロとドル、ユーロと円は変動しても、ユーロ内のたとえばドイツとギリシャは「固定相場」だ。そうなれば当然、産業競争力で優るドイツが強くなる。統一通貨になる前であれば、それを為替で調整できた。ドイツのマルクとギリシャのドラクマの為替がドラクマ安に傾けば、それでギリシャはある程度競争力を回復することができたはずである。
しかし今はそれができない。ギリシャはユーロを離脱しない限り、為替による競争力の回復はできないのである。通貨の統一、やがては財政の統一まで図ろうというのが欧州の夢であるとしても、それを前に推し進める上で、高い壁にぶつかっているのが現状だ。もちろん欧州全体も出生率の低下による人口減少という構造的変化に悩んでいる。
EUがこの混乱をどう乗り切るのか、その道筋はまだ見えない。しかしEUの混乱が続き、ユーロが不安定な状況にある限り、世界経済も安定しない。何と言ってもEUという塊で見れば、米国や中国と並ぶ大市場なのである。「歴史は前に進めるしかない」と元日銀総裁が語ったことがある。それはその通りだが、EUが乗り出した「海図なき航海」がますます濃い霧の中に入っていることだけは間違いなさそうだ。
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