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» 2015年03月05日 09時30分 公開

印象だけ高性能でも――自動車メーカーの罪深い「演出」池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/3 ページ)

[池田直渡,Business Media 誠]

どういう仕組みでアクセルの演出をしているのか?

 実はこういうセッティングは最近のことではない。むしろ昔の方が酷いものが多かった。昔のインチキな仕組みはこういうものだ。

 アクセルペダルからつながったワイヤーはスロットルバルブ(別名バラフライバルブ)を開ける。スロットルバルブはうちわのような形状で、普段はエンジンの吸気通路をふさいでいる。うちわは柄を軸に回転するから、どんどん開いて行くと、最終的には流路に対してうちわの面が水平になって吸気通路がうちわの厚さ面積分を除いて全開になる。これが基本的な仕組みだ。

 もう少し詳細に見てみよう。うちわは放っておくと、スプリングの力で通路をせき止める角度に戻る。アクセルペダルから来たケーブルはその柄に巻きついていて、ばねの力に逆らってうちわの軸を回転させて通路を開くのである。これも至って単純な仕組みである。

 問題をややこしくしているのはここから先だ。このケーブルの巻き付け軸には数字の6の様ならせん形状のカムが取り付けられている。細いところは巻き掛け径が小さいからケーブルの引っ張り距離に対してよりスロットル軸は大きな角度で動き、太いところでは角度が小さくなる。

 この特性を生かすなら、らせんの太い側からスタートすれば、最初は穏やかでその先で速くなる。先のマウスの例のように細かい操作と大きい操作が両立するのだが、本末転倒な演出のために細い方からスタートするのである。人間工学に対する裏切りに近い。

 グラフで考えれば、最初に傾きを急角度に取って予測値を狂わせ、その先の超高性能を期待させる。しかしなんのことはない、スロットルがガバッとワイドオープンになっているだけだ。ある点から角度は急失速して予測値をはるかに下回る。

 最近では多くのスロットルが電制化されているから、カムではなくてプログラムでこういう特性が盛り込まれている。子供だましもいいところだ。一体どういう気持ちで、こんなプログラムを書くのだろう。

 何よりも罪が重いのは、それで使い勝手が悪くなることだ。先にあげた渋滞での微操作や、高速での加速の腰折れ感など、人が操作する機械なのに人の予測を裏切ってどうするつもりなのかと問いただしたい。

レース用エンジンは目的の優先度がはっきりしている。レースを走りきれる耐久性が第一、次に勝ちを狙えるパワー、しかしそれでも3番目には運転のしやすさが入って来る。ドライバビリティはあらゆるクルマにとって重要なファクターだ

ブレーキの妙な味付けはさらに問題

 しかし、もっと重罪に問いたいものがある。ブレーキである。ペダルにちょっと足を乗せただけで、びっくりするくらい効くブレーキがある。もう20年以上前になるだろうか、2代目のシャリオで死にかけた。最初のブレーキの効きに「これ、効きすぎるほど効くなぁ」とすっかり勘違いして、いきなりいいペースでアプローチ。高性能ブレーキを生かして一気に減速……のはずが全然止まらない。ありとあらゆる手段を使って事故だけは免れたものの、あの時もう少し調子に乗っていたら、今頃こうして原稿を書いていなかったかもしれない。

 以来、特にブレーキは初期の印象は一切当てにしないことにしている。そういう意味では、筆者にクルマとの付き合い方を教えてくれた一台として生涯忘れないだろう。

 こういうブレーキは普段も使いづらい。例えば駐車場の発券機の位置に合わせて止まりたい時、低速でやたらと急激に効くブレーキではたかが発券機に寄せる操作で無暗に真剣なブレーキ操作を強いられる。

 もしこれが、本当に200km/hオーバーからの制動を担保するための大径ディスクブレーキなら仕方ない。例えば初代ポルシェ・カイエンのターボモデルは、2トンを優に超える巨体にも関わらずアウトバーンを250キロで巡航させることを本気で考えていた。だから巨大なディスクブレーキを備えるわけだが、ディスクブレーキは原則的に、径が大きいほど低速でのコントロール性が悪い。料金所で係員に料金を手渡し出来る位置に一発で止めるのは至難の技だった。

 個人的には普段使いにくいブレーキのクルマは要らないが、異常な速度で走りたい人たちの期待に応えるモデルなのだから、リスクの高い高速での安全を考えれば仕方がない。実際ノンターボのV6モデルはブレーキの径が落としてあり、そういう普段使いでの操作性に齟齬(そご)がなかった。

 このように、高速からの制動に本物の実力があって、それとバーターで命のかかっていない低速がダメだというなら、諸事情に鑑みて(日本で要るのかとか、舞台がアウトバーンにしてもそんなに出すならポルシェ911の方がはるかに良いとかを別として)一定の理解もできる。しかし、低速で使いにくいほど効き、それが高速ではまるで効かないブレーキというのは理解の範疇(はんちゅう)を越えている。そんなクルマを作るエンジニアは尊敬できないし、演出を優先したブレーキだけは絶対に許せない。

ブレーキは高速移動体であるクルマにとって生命線である。それを演出でおかしなことにすることは許されない

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