今回のストレスチェック制度では、集団的な分析、つまり組織分析についても定義している。医師などの実施者は、個人のストレスチェックの結果を「部」「課」「職種」「役職」などのくくりで集計し、集団としてのストレスの特徴や傾向を事業者に示すことが努力義務として求められている。事業者は、その分析や結果を踏まえた上で、職場環境の改善など、必要な措置を講ずることが、同じく努力義務として課せられている。
そもそもメンタルヘルスケアは、従業員自ら心の健康作りを行う「セルフケア」と、組織の管理職が行う「ラインケア」が不可欠であり、いわば車の両輪とも言うべき関係にある。今回の義務化では、「ラインケア」の部分が「努力義務」となっている点に疑問の余地が残る。
ただし、組織のストレス傾向を分析・対処するアプローチは、個人の治療を中心とする医師には、専門領域とは異なる分野だ。分析や結果を踏まえ必要な措置を講ずることは、組織マネジメントを見直し、ともすれば経営の核心部分に迫る必要がある。すべての事業場に、このような措置を講ずるための環境を直ちに整えることが難しい点を考慮したものだろう。
実際には、写真のような分析結果を記したシートが実施者から事業者に示される。この分析結果では、設問に対し様々なくくりで偏差値が示されている。基本的には、数値が高いほど健康度が高くなる。ここでは、53以上を高い健康度として水色で示し、47未満を課題ありとして赤色で示している。
ストレスチェックの実施者(医師や外部機関)は、この結果を示すことで事業者と共に、職場環境の改善などに取り組むことになる。ここから先の取り組みは、個別事例ごとのコンサルティング領域になるだけに、この分野で実績を多く積んだ実施者と組むことが得策だろう。
冒頭で紹介した、厚労省が問題視したマクロな視点での社会的損失は、話が大きすぎて実感がわかないのだが、これを自分の職場の問題に置き換えると「損失」が容易に想像できるのではないだろうか。課内に、うつ病の社員を1人抱えただけでも業務へのインパクトは多大なものがある。それは、本人だけの問題では終わらない。周囲を巻き込んだモチベーションの低下、負荷の増大、うつ病の連鎖的発症など、組織活力や生産性の低下に直結する。これが中小企業ともなれば、会社全体に影響が及ぶこともあり得る。
「メンタルヘルスチェック義務化」という言葉から、事業者側からすると、法律に対応するために必要な「コスト」という感覚で捉える向きもあるのではないだろうか。だが、例えば『Harvard Business Review』(参照リンク)は、2012年2月号で「The Value of Happiness - How Employee Well-Being Drives Profits」(幸福の価値――社員の幸福は利益を生む)という特集を組んでいる。これは、社員が幸せになることは、社員本人だけでなく、会社の利益にもつながるという考え方を紹介したものだ。ストレスチェックの実施で、うつ病の社員を出さないための一次予防に力を入れることは、企業にとっても利益につながる話なのだ。
音楽制作業に従事しインディレーベルを主宰する傍ら、IT系のライターもこなす。街歩き用iPhoneアプリ「東京今昔散歩」「スカイツリー今昔散歩」のプロデューサー。また、ヴィンテージ鍵盤楽器アプリ「Super Manetron」「Pocket Organ C3B3」の開発者でもある。プロデュースした音楽アルバム「全6時間のノンストップ勉強・作業用BGM - 集中と全力の101曲」は、iTunes Storeのクラシックジャンルで6カ月以上ベスト5をキープ中。
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