普通に考えれば不要な謝罪会見を進んで開き、トレーニングを受けた者らしからぬ謝り方をする。企業危機管理の鉄則など頭からすっ飛んでしまうほど、経営者として「謝りたい」という衝動にかられたのではないか。
プロたちが苦言を呈するように、そういう場当たり的な対応は後々自分の首を絞めることが多い。ただ、個人的にはそれほど強い思いがあるのならやらせてあげてもいいのではとも思う。時と場合によってはセオリーよりも真摯(しんし)な態度が功を奏することがあるからだ。
今からちょうど10年前、料金自由化や無料タクシーで知られるエムケイ(本社京都市)のグループ会社である「東京エムケイ」の社長(当時41歳)が東急線の駅員を殴って、傷害容疑で神奈川県警に現行犯逮捕された。
サラリーマンならば誰しも身に覚えのある酩酊して降りる駅を乗り過ごしたところで、「どうして起こさなかった」といちゃもんをつけてポカッとやったわけだ。なんともくらだない不祥事だが、名の知れた企業ということでマスコミはベタ記事ながら一斉に事件を報じた。
いくらトップが逮捕されたとはいえ、業務に関する不祥事ではない。帰宅途中に起こした極めて個人的な違法行為である。危機管理のセオリーでいえば広報が謝罪コメントを出して「以上終了」となるケースだ。実際に2014年11月、静岡新聞の取締役が酔っ払ってタクシー運転手をぶん殴ってケガを負わせたが、ここでも総務局長が「重く受け止める」と形式的なコメントを発してやり過ごしている。
ただ、エムケイはそうはしなかった。
逮捕翌日、京都本社から当時76歳の青木定雄会長がすっ飛んで来て、マスコミの前で謝罪会見を開いて、この社長を「一乗務員に降格する」という処分を発表。自らを含めた全役員が運転手として「無料お詫びタクシー」を運行する方針を明らかにした。
実は逮捕された社長は青木会長の次男である。「なんだ単なる親バカか」とか、「謝罪パフォーマンスが過ぎる」なんて声が聞こえてきそうだが、当時はあまりそういう批判はなく、むしろ「男をあげた」(日経ベンチャー)なんて褒められた。
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