ディズニーの携帯参入に見る、日本でMVNOを成功させるコツとは:神尾寿の時事日想:
2008年春から、ソフトバンクのインフラを借りる形で、ディズニーが携帯電話事業を開始する。「従来のMVNOとは違う」というそのビジネスモデルは、どこが新しく、なぜ双方にメリットがあると言えるのだろうか?
ウォルト・ディズニー・ジャパンとソフトバンクモバイルは11月12日、協業でディズニーの携帯電話事業「ディズニー・モバイル」を2008年春に開始すると発表した(別記事参照)。同日、移動体通信事業サービス提供に関する電気通信事業の届出を総務省に提出した。
今回の協業モデルでは、ソフトバンクモバイルが通信ネットワークを中心に携帯電話事業の“インフラ部分”を提供。ディズニー側はこのインフラの上で、強固なブランドと顧客基盤をベースにしたエンタテイメント指向の強い携帯電話サービスを実現する。端末および各種サービスの開発、コンテンツ開発、マーケティング、販売ネットワークなどは両社が協力して取り組む予定だ。なお、ディズニー・モバイルの契約はウォルト・ディズニー・ジャパンとの間で結ぶ形になり、ほかのキャリアとの間でMNP(番号ポータビリティ制度)の利用も可能になる。ディズニー・モバイルはソフトバンクモバイルのインフラを使ってはいるものの、あくまで「独自のキャリア」という位置付けになる。
従来型MVNOとは異なる協業モデル
自らはインフラを持たず、既存キャリアから借り受けて携帯電話事業を手がける。このようなビジネスモデルは、「MVNO (Mobile Virtual Network Operator : 仮想移動体通信事業者)」と呼ばれており、欧米ではVirgin Mobileなどの実例がある。しかし、それら欧米のモデルは音声サービスの再販を中心にしたビジネスモデルであり、インフラの貸し手である既存キャリアと、インフラを借りてビジネスを展開するMVNO事業者が競合関係となるケースも多い。そのため日本の既存キャリアの中には、MVNO事業者へのインフラ貸し出しに消極的な見方が強い。
今回のディズニー・モバイルも、ソフトバンクモバイルがインフラを提供し、その上でウォルト・ディズニー・ジャパンが携帯電話事業を行うという仕組みだけ見れば「広義ではMVNOの一種」(関係者)となる。しかし、欧米で普及するMVNOと異なり、ウォルト・ディズニー・ジャパンとソフトバンクモバイルは単なるインフラの貸し借りを越えて協業することで、コンテンツ・サービス分野の収益拡大や新たな顧客の獲得・囲い込みを狙う。単なる音声サービスの再販ではないため、既存キャリアとMVNO事業者のビジネス的な競合が起こりにくく、双方がメリットを得られるのがポイントだ。また、現在シェア3位のソフトバンクモバイルの立場では、「ディズニー・モバイル」の事業で間接的に、ドコモとauの顧客層にアプローチできることも協業のメリットになるだろう。
日本の協業型MVNOは注目分野
日本におけるMVNOをめぐっては、今年10月に発表された総務省の「新競争促進プログラム 2010」のモバイルビジネス活性化プランでも重点項目として挙げられている。既存キャリアの思惑がどうであろうと来年の携帯電話市場において重要なテーマの1つになる。ソフトバンクモバイルは今回のディズニーとの協業モデル構築で、業界の今後の流れに先手を打った形だ。
MVNO事業者としての携帯電話ビジネス参入には、ディズニーのようなエンターテイメント企業はもちろん、公共交通事業者やクレジットカード会社、自動車メーカー、流通小売り、飲食チェーンなど、さまざまな業界が食指を動かしている。欧米の競合的MVNOとは異なり、日本の協業型MVNOは今後の注目分野となるだろう。
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