政府系ファンドの成長とサブプライムローン問題の関係 :藤田正美の時事日想:
東京・恵比寿のウェスティンホテル東京を、シンガポール政府投資公社が買収するという。政府系ファンドは年々力を増しているが、特に新興国ファンドの成長は、新たな政治的火種になる可能性を秘めている。
東京目黒区にあるウェスティンホテル東京がシンガポール政府投資公社(GIC)に売却されるという記事が出ていた。日本の不動産が割安であること、長期的に安定した収益が見込めることなどの理由から、購入することを決めたのだという。
ソブリン・ウェルス・ファンド(SWF)とは何か
GICのように、政府が直接的あるいは間接的に運営するファンドのことをソブリン・ウエルス・ファンド(SWF、政府系ファンド)という。政府が保有する対外資産といえば外貨準備がすぐに思い浮かぶが、外貨準備の投資対象は収益性よりも流動性や安全性の高い米国債などの資産に限定される。これに対してSWFの場合は、株式や不動産といったリスクのある資産にも投資されるという特徴がある。
GICのほか、最近話題になっているSWFの動きといえばシティグループやメリルリンチなどに対する出資がある。シティグループには145億ドル、メリルリンチには66億ドルの出資だから、日本円にすると合計2兆円をはるかに越える。
SWFの動向が近年注目されているのは、資源の値上がりや発展途上国の急成長などを通じて、世界のSWFの総額が増えているからだ。モルガンスタンレーによると、世界最大のSWFとされているのはアブダビ投資庁(Abu Dhabi Investment Authority)で資産総額は8750億ドル、そのほか有名なものには、ノルウェーの政府年金基金の3800億ドル、シンガポール政府投資公社の3300億ドル、同じくシンガポールのテマセク1600億ドル、中国の中国投資有限責任公司の2000億ドル、サウジ通貨庁が管理している合計3000億ドルのファンド、クウェート投資庁2500億ドルなどがある。
SWFの資産内容はほとんどが公開されていない
このうち資産内容をある程度でも公開しているのはノルウェーだけで、他のファンドの運用内容は国家安全保障の観点から秘密のベールに包まれているのだという。こうしたSWFの総額がどの程度なのかは推測に頼るしかないが、だいたい2兆ドルから2.5兆ドルとされている。
こうした資金が大量にウォール街に流れ込んでいるのは、いまアメリカの金融機関がサブプライムローン問題(参照記事)で体力が落ちているからだ。それを支えるには資本を注入するしかない。しかし問題もある。例えば、みずほフィナンシャルグループが出資するのと違って、政府をバックとする大株主ということになれば、そこには経済の論理だけでなく政治の論理が入り込む可能性が生まれるからである。
新興国SWFの成長が、政治問題につながる?
金融市場が落ち着いてくれば、アメリカ経済の要であるウォール街から、こうしたSWFが入り込んでくるのを規制しようという動きが出てきてもおかしくはない。実際、アメリカでは中国企業がアメリカの石油会社を買収することに議会が反対したことがある(安全保障に関わる企業への買収に対しては、アメリカの議会は常に敏感だ)。
今後、SWFの金額がさらに伸びることは間違いない。中国の外貨準備は今でも1兆7000億ドルほどあるし、これからもさらに伸びる。ロシア(現在4800億ドル)、インド(同2900億ドル)といった国も同様に外貨準備が増えていくだろう。そういった国のSWFが力を増してくれば、先進国の警戒感が強まり、保護主義が対当してくる可能性も強まる。アメリカの金融危機がどのように収まるかにもよるが、新たな火種がここにある。
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