相互利用の進展で、電子マネーの主役は“交通系”になるか:神尾寿の時事日想
Suica、PASMOの利用件数が増えている。JR東日本の交通乗車券として始まったSuicaは、当初使える場所が駅の中に限られていた。しかしPASMOとの相互利用により使える場所が増え、使い勝手が格段に向上してきたのだ。
4月24日、東日本旅客鉄道(JR東日本)とPASMO協議会、パスモが、SuicaとPASMOの1日あたりの電子マネー利用件数が100万件を超えたと発表した(参照記事)。「IC乗車券」として誕生したSuicaが電子マネー機能を有したのは2004年3月。それから4年で、首都圏を代表する電子マネーにまで成長したことになる。
相互利用による“ネットワークの拡大”に大きな可能性
Suica電子マネーはサービス開始以降、着実に利用数を増やしてきたが、“爆発的な拡大”の要因となったのは、昨年3月から始まった「Suica/PASMOの相互利用化」だ(参照記事)。これにより、鉄道・バスだけでなく電子マネーの部分でも、首都圏の“駅と沿線”がネットワーク化された。消費者の利便性は飛躍的に向上し、Suica/PASMOで「電車に乗って、電子マネーで買う」というスタイルが定着してきたのだ。
実際の数字を見ても、交通系電子マネーの伸びは著しい。本誌では定期的に主要なFeliCa決済の利用状況をまとめているが、最新の数字を見ると、Suica/PASMOの発行枚数は約2903万枚、月間利用件数は合計で約2380万件だ。これまで電子マネーの代表格とされてきたビットワレットの「Edy」と比較すると、発行枚数こそEdyの約3880万枚に及ばないものの、月間利用件数はEdyの約2400万件に肉薄している。nanacoほどではないが、Suica/PASMOの稼働率が高く、“よく使われる電子マネー”になっていることは間違いない。
Suica/PASMOなど交通系電子マネーは、「電車・バスでの利用」が前提としてあり、そのためにチャージしたお金を電子マネーとしても利用する。日常生活の移動で使うことが“目的”であり、電子マネー部分は付随的なものなので、多くの潜在ユーザーを作りやすいというメリットがある。
その上で、JR東日本やPASMOを採用する電鉄各社は「駅ナカ」・「駅ウエ」・「駅チカ(駅周辺)」に電子マネー加盟店を開拓(参照記事)。相互利用化により、交通系電子マネーを“駅と沿線”を軸に“どこでも使える”ようにしたため、電子マネーの利用率と利用者層が拡大したのだ。
さらに交通系電子マネーの「ネットワークの拡大」は、同一地域外にも拡がり始めている。周知のとおり、今年3月からJR東日本のSuica電子マネーとJR西日本のICOCA電子マネーとの相互利用化が開始。Suica電子マネーは、2009年にJR北海道の「Kitaca」、2010年には西日本鉄道の「nimoca」、JR九州「SUGOCA」、福岡の市営地下鉄「はやかけん」をはじめとする九州の交通IC/電子マネーと相互利用化を行う方針だ(参照記事)。
これまでSuicaなど交通系電子マネーは「駅・駅周辺への局所的展開で利用率は高いが、利用エリアが限定される」と見られてきた。しかし、JR東日本をはじめとする大手鉄道会社各社の“相互利用化”への積極姿勢によって、その状況は変わり始めている。将来的に、全国の多くの街が「交通IC/電子マネーの相互利用ネットワーク」で結ばれるシナリオは十分に考えられるだろう。交通系電子マネーの成長と存在感の拡大は、今後さらに進展しそうだ。
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時事日想でおなじみ、神尾寿氏と、Business Media 誠の吉岡編集長が2007年のFeliCa関連ニュースを振り返る年末対談企画。前編では、PASMO=Suica相互利用、モバイルSuicaなど、交通IC乗車券に関する話題を中心にお届けします。
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