日産が考える「ぶつからないクルマ」に乗ってきた:神尾寿の時事日想・特別編(2/2 ページ)
近年減る傾向にあるとはいえ、毎年6000人以上の日本人が交通事故で亡くなっている。自動車メーカーは今、“ぶつかっても安全”から1歩進み、“ぶつからないクルマ”作りを進めている。日産自動車が考えているのは“見えない繭でクルマを包むようにして、事故を防ぐ”というコンセプトの実現だ。
むろん、このコンピュータによる走行介入は、ドライバーに対する警告が目的だ。実際に試乗で数回試したが、まるで“空気の壁に触れたかのような”感覚があるのみ。クルマに運転を押しつけられるような、嫌な感じはまったくしなかった。ハンドルをそのまま切れば警告を無視して車線変更もできる。
「斜め後ろを監視するミリ波レーダーは精度が高く、悪天候に強いという特性があります。バイクの感知も可能なので、都市部で増えているバイクのすり抜け時の事故も防げます」(説明員)
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一方で、実用化の課題は、基本システムとして「ESC」を使うことだ。ESCは欧州では7割近い普及率を誇り、北米では各州で装着義務化の動きが広がっている。非常に事故抑止効果の高い安全装備だが、日本では標準装着しているクルマがほとんどないのが現状だ。セーフティシールドの各要素技術を実用化する際には、その前段階としてESCの普及率を高くする必要がある。
GPSケータイと連動して、歩行者事故を抑止
この10年、クルマの安全性は飛躍的に進歩し、交通事故死亡者の数は激減している。日本ではIT新改革戦略で交通事故死亡者5000人以下の数値目標が掲げられたが、衝突時安全技術の向上や予防安全技術の相次ぐ実用化の奏功などもあり、これは早々に実現できそうである。しかし、その一方で、将来に向けた大きな課題となっているのが、歩行者の安全性確保である。
日産では、この歩行者事故の抑制において、急速に普及したGPS携帯電話との連携を模索。NTTドコモとともに、クルマから見えにくい場所で歩行者がいる場合に、GPS携帯電話から集めた情報を元にカーナビ上に注意喚起を促す「GPS携帯協調歩行者事故低減システム」の開発を行っている。
このシステムでは、歩行者のおおよその位置は把握できるものの、クルマと違って詳細な移動速度や向かっている方向までは分からない。そのため詳細な警告情報を出すのではなく、あくまで注意を促すだけに留まっている。また、歩行者すべての位置を確認し、その都度、インフォメーションを出すのは現実的ではないので、当初は子どもやお年寄りなど、ドライバーがより見落としやすい歩行者が対象になる。
「GPS携帯電話の普及状況は申し分ないのですが、このシステムを実用化する場合、課題となるのは(携帯電話側の)バッテリー駆動時間です。常に位置の測位と送信を行うと、すぐにバッテリーがなくなってしまいますから。歩行者事故の多い地域などに入ると自動的に位置情報通知が始まるなど、実際の運用を視野に入れた研究や実証実験がさらに必要でしょう」(技術開発本部IT&ITS開発部の福島正夫氏)
例えば、NTTドコモではGPS位置測位だけでなく、基地局の位置情報から測位する「iエリア」という機能がある(参照記事)。こちらは基地局の位置情報と、常にやりとりされている制御信号をもとに位置の特定を行うので、GPS測位を常時行うよりもバッテリー消費を抑えることができる。そのためiエリア情報で歩行者が見通しの道路の見通しが悪いエリアに入ると、自動的にGPS測位による警戒モードに入るといった機能連係も考えられる。日産自動車とNTTドコモでは、2008年秋からこのGPS携帯電話連携の歩行者事故低減システムの大規模実証実験を行う予定だ。
インテリジェントシートベルトとは?
先進安全技術というと、大がかりで高度なものばかりイメージしがちだが、既存の装備や機能を改良するだけで実現可能で、しかも大きな安全効果が得られるものもある。
今回の試乗会の中でも、そういった既存装備の改良が紹介されていたのだが、特に筆者が感心したのは「インテリジェントシートベルト」だ。
これは従来、プリクラッシュセーフティの一部として実用化されていた事故直前シートベルト巻き上げ装置「オートプリテンショナー」をさらに発展させたものだ。ECUやステアリング操作の状況も総合的に判断し、先行車との追突が避けられない「事故直前」だけでなく、クルマの横滑りや急ハンドル時にもシートベルトを自動で巻き上げて“たるみ”を取り、ドライバーやパッセンジャーの身体をしっかりと拘束する。これによりドライバーが運転しやすくなるほか、もし事故になってしまったときも、シートベルトの効果が最大限発揮される。地味な装備に見えて、実は安全への貢献度はとても高い。
さらにインテリジェントシートベルトでは、乗車時にシートベルトが前にせり出して身体をひねらなくても着用できるようになり、装着すると体型にあわせて自動的にフィットする機能まで用意されている。これは安全とは直接関係ないが、これから先進国で急増する高齢者のサポート機能としても役立ちそうだ。
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“ぶつかっても安全”から、“ぶつからないクルマ”へ。クルマに求められる「安全の定義」は大きく変わろうとしている。これら先進技術の市販化に向けては、コスト削減や消費者の認知度と理解の向上など課題も山積しているが、ぶつからないクルマの実現と普及はクルマが21世紀のモビリティとして社会に受け入れられるための必要条件の1つだ。日産を始め、各自動車メーカーの取り組みに注目していきたい。
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