どうなる、こうなる首都圏の鉄道網――(1)横浜エリア編:近距離交通特集、出発進行(3/3 ページ)
日暮里舎人ライナーやグリーンライン、地下鉄副都心線が開業した2008年の首都圏はちょっとした“鉄道開業ブーム”だった。しかし、新線はこれで終わりではない。本記事では5回に分けて、首都圏の鉄道開発計画を紹介していく。
【07】川崎縦貫高速鉄道(仮称)の新設
川崎縦貫高速鉄道(仮称)新設計画の概要
北西−南東の細長い地域となっている川崎市の背骨となるべく構想された路線。川崎から北西方向に線路を延ばし、東急東横線元住吉、東急田園都市線宮前平を経て小田急新百合ヶ丘に至る。また、川崎から海方向へは京急大師線に乗り入れる案も検討されている。京急大師線は連続立体交差事業により地下化工事が進められている。
川崎縦貫高速鉄道(仮称)新設計画の現状
海から内陸へと細長く伸びる川崎市では、内陸部へ向かうほど東京都心志向が強くなる。多摩川寄りの地域はJR南武線が通じているが、駅間距離が短いため所要時間が長くなることから、川崎へ向かう足というよりも放射路線を結ぶ乗り継ぎ路線としての機能が目立つ。川崎縦貫高速鉄道も放射状の路線を結ぶが、駅数を減らして高速路線とし、全川崎市エリアから川崎への求心力を高める目的があった。
川崎市は18号答申を受けて、まずは収益性が見込まれる元住吉−新百合ヶ丘間の免許を申請。続いて小田急多摩線との相互乗り入れ案を発表した。しかし川崎市の財政難により計画は停滞。2005年に事業の再評価が行われ、さらに採算性を再検討した結果、武蔵小杉駅から小田急新百合ヶ丘までの路線を初期整備区間とする案が浮上した。
武蔵小杉駅は東急東横線、JR南武線に加え、新横須賀線の駅建設も決まっており、同駅を核とした鉄道網の形成を狙う。新案では新百合ヶ丘から小田急多摩線に乗り入れ、利便性を高める。さらに、小田急の協力を得て唐木田車庫を利用することで用地費用を削減したい意向がある。
川崎市では市民から早期開業を望む署名が寄せられ、市長選挙でも推進派が当選するなどの追い風を受けて、事業の再認可を受けるべく活動中だ。2005年に出された「建設概要」によると、着工は2009年度が目標。先行開業は2017年度。川崎までの全線開業は2025年度を目指す。先行開業区間は、武蔵小杉−等々力緑地−子母口−久末−野川−宮前平−犬蔵−蔵敷−医大前−長沢−新百合ヶ丘。宮前平に追い越し設備を作り、武蔵小杉と新百合ヶ丘を16分で結ぶ。
また、武蔵小杉から川崎へは3つのルート案が検討されている。Aルートが新川崎駅南西の鉄道空白地域経由、Bルートが新川崎を縦貫して川崎駅へ直行、Cルートは新川崎駅の南西と東の鉄道空白地域を結んで蛇行する。いずれのルートも川崎駅で地下化された京急大師線と相互乗り入れする予定。
ただし、小田急多摩線と京急大師線は線路の幅が異なるため、川崎縦貫高速鉄道が小田急の線路幅で建設された場合、京急に乗り入れるためには両方の線路幅に対応する電車を開発するか、京急大師線の線路幅を変更するか、京急大師線を3線レールとし、両方の線路幅に対応させる必要がある。大師線の線路幅の変更については京急が難色を示すことが予想される。2つの線路幅に対応する電車は日本の鉄道業界としてもまだ開発段階であり、その製造や線路改良のコストを考えると、川崎駅で同一ホーム乗り換えとするような形に落ち着くと思われる。
【08】京浜急行電鉄久里浜線の延伸
京浜急行電鉄久里浜線延伸計画の概要
京浜急行久里浜線の終点、三崎口駅から油壺へ延伸する計画。もともと京急は三浦三崎までの路線免許を受けていた。その区間のうち、途中の油壺までが政策として整備推進すべきとされた。
京浜急行電鉄久里浜線延伸計画の現状
京急は当初から三崎まで全通させる意向だった。しかし、三崎市市街地の用地買収に難航し頓挫。1970年に路線免許が失効する。京急としては線路を延伸するつもりで油壺付近を観光開発しており、せめてそこまで延伸したい意向があった。ところがそれも用地買収、環境問題などの理由で停滞している。結局、京急は2005年に三崎口−油壺間の免許も返上した。
実は京急は羽田空港拡張への投資、京急蒲田付近の連続立体交差事業など投資案件が多く、三崎口以遠の延伸問題は優先順位が低かったという事情もある。
京急は免許を返上したものの、この区間をあきらめているわけではない。羽田空港関連の投資終了後には再び取り組む意向があるようだ。その際には当初のルートに固執しない考えで、地元との話し合いによって環境負荷の低いルートを新設定するなど柔軟な姿勢を見せており、円滑な形での再立ち上げを望んでいるようだ。
これは鉄道事業法の改正や18号答申の効果があったと思われる。京急が路線を延伸し続けた時代は、路線免許の申請や廃止は厳しいものだった。しかし、規制緩和政策により、現在の鉄道路線建設は許可制となっている。新たに路線許可を申請する場合も、18号答申の路線であることが有効だという判断が働いているのだろう。
18号答申は見直される可能性も
次回以降も、今回取り上げることができなかった整備される可能性が高い路線について紹介する。
ただし、現在でも実行力を持つかのように見える18号答申も見直しの可能性がある。2001年の省庁改編によって、運輸省は建設省などと合併して国土交通省になった。運輸省管轄だった運輸政策審議会は廃止され、国土交通省に新設された交通政策審議会に引き継がれている。
18号答申は陸上交通分科会の鉄道部会が担当するが、2006年に開催された第1回鉄道部会では「将来の交通需要などをしっかりと考えるべき」という意見が出されたほか、踏切解消や放置自転車、バリアフリー対策、安全対策、地方鉄道対策なども重要な審議対象となっている。
鉄道部会では「2010年に向けてとりまとめを行う」としており、この時に18号答申に替わる新たな指針が提示される可能性が高い。それを踏まえて読んでいただければありがたい。
→どうなる、こうなる首都圏の鉄道網――(2)東京エリア編その1
→どうなる、こうなる首都圏の鉄道網――(3)東京エリア編その2
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