歴史的建造物を救え!――古都ウルムの大聖堂修復プロジェクト:松田雅央の時事日想(3/3 ページ)
欧州に多い石造りの建物でも年数を重ねれば建材が痛み、修復を怠ると石材の落下や建物崩壊の危険が生じる。そのため、1年中修復作業をする必要があるのだ。
求められるマネジメント能力
ウルム大聖堂の建設当時、最盛期には約2万人が従事していたとされる。総責任者としてすべての作業を統括する「バウマイスター(建築マイスター)」には土木・建築の知識と技術はもちろん、資材の調達、輸送、作業工程管理、資金管理、人事管理まで巨大プロジェクトの総合マネジメント能力が不可欠であった。
例えば資材調達だけでも想像を絶する大仕事だったはず。ウルム市周辺には石材が産出しないため大聖堂ではレンガを多用しているが、粘土の掘り出し、レンガ製作所への輸送、薪の調達、製造されたレンガの輸送といった作業も調整しなければならなかった。
ウルム大聖堂の建設が始まったのは1392年で主塔が完成したのは1890年と、実に500年もの時間がかかっている。大規模建築になるとバウマイスターの交代、戦争、財政難などによる作業中断は決して珍しくない。教会によっては建設期間があまりに長いため途中で建築様式が変わってしまい、1つの建物でありながらゴシック様式、ルネサンス様式、バロック様式が混ざり合うことさえある。
ウルム市民の誇りと意地
昔からウルム市民は自治意識が強く、ウルム大聖堂の建設資金はすべて市民の寄付と税金で集められたという。ウルムは12世紀終わりに王の支配を離れた「独立都市」の地位を獲得し、14〜15世紀にはシュバーベン都市同盟の主導的な地位を築いている。旺盛な自治意識が市民による大聖堂建設の原動力であり、南塔の修復に必要な1000万ユーロも「ウルム大聖堂建設市民協会」が中心となって募金活動を続けている。
巨大な建物と空を突き刺す塔は神の国へ少しでも近づきたいという祈りの発露だが、そこにはまた、教会の権威誇示、時には政治的な背景といった「世俗の思惑」も強く関わってくる。ウルム大聖堂がケルン大聖堂より4メートル高く作られた理由は「ケルン大聖堂に負けたくない」という市民の意地だったというから、何とも人間臭くて面白い。
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