“無垢の木”の住宅の魅力を伝えるために――木童 木原巌社長:郷好文の“うふふ”マーケティング(2/2 ページ)
木材と接着剤から作られている合板などの木材製品に対して、木を切ったり削ったりしただけの木材「無垢の木」。その魅力を伝え、ユーザーと建築家や工務店との間を取り持っているのが木童の木原巌氏だ。
山ごとに木材を知り、割れのない材木を開発する
木童の新宿のショールームにはずらりとサンプル材が並んでいる。杉だけでも全国には30種類以上の地域材があり、その植林形態で床に向くか、壁に向くか、あるいは屋根に向くかが変わってくる。だから、「山を見なさい、なぜそこで林業が発達したか歴史を知りなさい」と木原さんは木童のスタッフに言う。
ショールームにある梁材の画像、まん中の割れが見えるだろうか。開放系のビル空間の空調は過酷なため、サンプル材が割れることもある。しかし、それを隠さずに木の特性を説明し、なおかつ一般住宅では絶対に割れないようにする乾燥技術も同社は開発した。
木材乾燥には人工乾燥と自然乾燥があるが、枝を払って山の斜面で何カ月も自然乾燥できるケースは少ない。機械での人工乾燥を導入する方が、費用対効果では理にかなう。しかし、木材には真の意味で“乾燥マニュアル”というものが存在しない。高温乾燥、蒸気加熱、燻煙(くんえん)などさまざまな手法があるが、地域材によってやり方が異なる。1つの答えがない世界なのだ。だから木童ではいくつかの木材に絞って、割れない乾燥技術研究をしている。
ちなみにショールームのミーティングスペースは天然木で設計され、土足厳禁。木の床だと日本人は靴を脱ぎたくなる。足の裏で木を感じるのが気持ちいい。
木童が支持される理由
木童は建築家や工務店、そして施主であるユーザーの真ん中に立つ存在。「どんなライフスタイルで住みたいか」をユーザーから聞き、家造りに求めるものをつかんで適切な工務店や建築家を紹介し、ぴったりの木材を選定する。施工中も要所要所で立ち会ってくれる。だから、本当の木の家を建てたい人が木童を頼って続々とやってくる。
大手住宅メーカーでは坪単価29万8000円などとうたう例も出ているが、木童の木の家の価格はその倍以上となる。以前は「モノは良いけど高い」と言われた。実績が付いてくると、顧客からは「それほど高くない」「高いけれどいい」という評価になってきた。だが、この建築不況でどうなるのか?
「今は『ローコストで無垢の木の住宅を建てたい』という声に応えようとしています」
木童でもコストを抑えた需要に応える方法は検討している。キーワードは“減築”だ。団塊世代にとっては、息子が独立し娘も去ると、従来の4DK住宅は不要になる。そうなると、部屋を減らして、1部屋の間取りを大きくした2DKに建て替えたい。美しい無垢の木も使いたい。一戸建てだけでなく、マンションでもそんな需要が増えているという。
もう1つのキーワードは“共存共栄”。多くの林業者が木童を慕うが、それは木原さんが一度も値切ったことはないからだ。どうすれば経営が成り立ち林業が受け継がれるかを念頭に置いて、その上でどうすれば安く提供できるかを考えようという姿勢。林業者も作り手もユーザーも、みんなが喜ぶことを目指して事業をやってきた。
住まいとともに美しく滅びていく
建ててから、買ってから後悔するのが住宅と言われる。住みだしてから不満が募り、そのうち「もうムリだよね」とあきらめて戸棚の奥に不満をしまい込む。ホルムアルデヒドなどユーザーが不健康になる住宅を提供してきた住宅業界は言語道断だし、昨今言われる“200年住宅”にしても、日本人の美意識とはどこかズレているような気がする。
ユーザーの美意識とは、「住まいとともに美しく滅びていくことだ」と私は思う。家も人と同じように、美しく古びていくのがいい。無垢の木の住宅の素晴らしさは、美しく古びてゆく木と一緒に生きられること、木を手入れし、古びる変化を楽しみつつ暮らせることなのだ。
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