金融不況で消費者の価値観が変化?――新しい時代の商品の売り方とは:郷好文の“うふふ”マーケティング(2/2 ページ)
金融不況をきっかけに大きく変化した消費者の意識。今何が必要とされ、何が必要とされていないのか。東急ハンズやAZスーパーなど、販売の現場の動きから分析する。
生活素材の提供と真のコンビニ
1つは6月25日にリニューアルした東急ハンズ渋谷店。コンセプトは“ヒント・マーケット”。
豊かな生活を過ごすためのヒントを、品ぞろえだけではなく実演販売やワークショップ、フロアの“ヒント・スタッフ”が提供する。各フロアの“Hint Pit!(ヒント・ピット)”では売り場ごとに異なるデザインの休憩スペースを置き、インテリアや工作のヒントを散りばめる。
ここ数年の東急ハンズの不振は、グッズばかりの品ぞろえでバラエティショップ化が行き過ぎたせいだった。いくらハンズでも品ぞろえだけではネットに勝てない。反転攻勢の原点となったのは“ハンズ=手づくり”。生活を自分で作り上げる喜び支援、生活素材とその情報提案という今回のコンセプト、私は大賛成だ。
もう1つは鹿児島県阿久根町の「AZスーパー」。人口わずか2万4000人の町に、売り場面積1万5000平方メートル、35万品目の品そろえの、日本で2番目に大きい24時間営業の巨大スーパーがある。
生鮮品のスーパーでありながら、ホームセンターとの合体店でもあるため、大工道具やガソリンスタンド、クルマ、車検まで販売。見学に行ったある百貨店の方によると、各売り場の品ぞろえの広さ・深さ・豊かさは百貨店の比ではないという。日々の仕入れを優先したエブリデイ低価格なので、Webサイトも制作する必要はないようだ。まとめ買いもついで買いもお散歩もできる。送迎バスや宅配サービスなど、老若男女、町民みんなのコンビニなのである。
消費ダダイズムからの教訓
金融恐慌の市場崩壊で地獄を見た消費者は、すっかり素面(しらふ)となり大人になった。売り手主導の商品・サービスに驚かされたフリをして、消費をすることに飽きてしまった。売り手のコンセプトはウザイ。何にも期待していない。
ヤバい時代になったと思うが、光がないわけではない。ダダイズムは“破壊”だけではなく、“創造”の起点でもある。ダダの運動からシュールレアリスムや1960年代のコンテンポラリーアートが生まれた。消費ダダイズムも、今までの売り手主体のビジネスを壊し、“真の消費者主権“のビジネスへと向かうための過程なのかもしれない。
渋谷東急ハンズは生活素材のセレクトに転換し、買い手をうながす。AZスーパーは消費者目線で便利さを広げて、巨大コンビ二に徹する。消費者をもう一度主役にしてみよう。業態転換をするなら今しかないし、せずに貫く決断をするのも今しかない。
関連記事
- キャラ弁は世界の“OBENTO”へ――達人、小川真樹さんに聞いた
アニメなどのキャラクターを食材で表現した“キャラ弁”。キャラ弁作りの達人、小川真樹さんは「キャラ弁のおかげで長男が幼稚園になじめるようになった」という。彼女はキャラ弁にどんなこだわりを持っているのだろうか。 - 大切なのは患者? それとも臓器?――がん闘病記を書いた理由
がん手術の経験をもとに、筆者の先輩が闘病記を書いた。きっかけとなったのは、大病院で医師に感じた、“違和感”だったという。それは……? - パンダキャラ、ゆるキャラが人気の理由
企業や地方自治体が展開する、パンダキャラやゆるキャラに癒やされる日本人。しかし、なぜ私たちはそうしたほほえましいキャラクターに癒やされるのだろうか? その理由を考えてみた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.