終電だ!:ちきりんの“社会派”で行こう!(3/3 ページ)
ある国の終電が出る時刻、というデータをIMFが発表しています。これは「有権者の中で50歳以上の人が占める割合が半数を超える時」を示すのですが、どうやら日本はすでに終電が出てしまった後のようです。
最終深夜バス発車時刻
1990年のバブル崩壊を境として、戦後以来続いた日本の“右肩上がりの世界”は終わってしまいました。「未来は明るいと思う時代」から「未来は暗いと思う時代」に変わったわけです。
そんな中で「有権者の7割が50歳以上」とかになったら、日本は確実に手足を縛られると思います。長期的に日本をどうすべきかという、若い人向けの政策を打ち出して政権をとるのはとても難しくなるでしょう。
ただ、終電発車時刻説が成り立つにはもう1つ前提が必要であって、それは「有権者の大半は自分の利益を最優先する」という前提です。これは本当に正しいのか?
ちきりんは空想的な思想は持ち合わせていないので、「自分のことより社会の利益を優先する人が大半だ」などと言う気はありません。しかし、自分のことより子どものことを優先して考える親は山ほどいると思います。
高齢者はお金持ちです。「自分の保険料は上がっても、子ども=孫の教育費は下げて欲しい」と思う人はいるでしょう。つまり、国全体での将来は考えなくても、「自分の家族の次の世代」のことは考える人は多いように思います。実際、ニートやフリーターを息子・娘として抱えていれば、そういう若者を切り捨てて高齢者の福祉を厚くする政策を、必ずしも自分が高齢者だからといって支持するわけではないように思います。
となると「最終深夜バス発車時刻」というものもあるんじゃないか、と思います。これは「子どもを持たない50歳以上の有権者が、全体の●割を超える時」という感じです。この時刻を過ぎれば、「遠い子孫の将来より自分の老後」という判断ばかりになってしまいます。
「そんなのまだ当面来ないよ!」という意見もあるでしょう。確かに日本全体ではすぐにそんな時代にはなりません。でも、未婚率が高く子どもを持たない夫婦の比率が高い特定の地域においては、また、有権者数ではなく選挙の投票率を加味した上の投票者数であれば、非現実的な事態ではないかもしれません。
子どもがいなくて、自分が50歳を超えたら……、やっぱり「自分のための政策」を求めるでしょう? 少なくとも、民主主義の大原則(世にも野蛮なる意思決定方法)である「多数決」に基づいた意思決定はその方向に進むと思います。
ちょっと怖くなっちゃいます……。
そんじゃーね。
著者プロフィール:ちきりん
関西出身。バブル最盛期に金融機関で働く。その後、米国の大学院への留学を経て現在は外資系企業に勤務。崩壊前のソビエト連邦などを含め、これまでに約50カ国を旅している。2005年春から“おちゃらけ社会派”と称してブログを開始。
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