歩いて楽しい“まちづくりのススメ”:松田雅央の時事日想(3/3 ページ)
地方都市の発展は社会的な課題となっている。地元商店街を再生し、中心市街地を活性化するには「歩きたくなるまち」を育てることが大切だ。ここでは宇都宮の試みを例に、日本とドイツのまちづくりについて考えてみる。
歴史というプラスαの魅力
筆者は歩きたくなるまちづくりのポイントとしてもう1つ、「歴史を感じられるまち」を加えたい。ドイツならば古い教会があり、古い街並みが残り、まちを歩くだけで歴史ドラマの中で散策しているような気持ちになれる。
まちに歴史が感じられるならば、たとえ郊外に娯楽施設を併設した大型ショッピングセンターが開店しても人は中心市街地に足を運ぶ。なぜなら、そこは歴史ドラマの生きた舞台であり、市民はその醍醐味を味わう術を知っているからだ。娯楽施設もこれだけは作り出すことができない。
ドイツの各都市は古い街並みが最大の観光資源となることにいち早く気付き、文化財保護の網をかけ保存に努めてきた。教会など特別な建物だけでなく商店や事務所、住宅もそこに含まれ、よほどの事情が無い限り取り壊しはもちろん外観を変えることさえ許されない。
こういった規制は個々の地権者にしてみれば不便であり、経済的な不利益にもなる。目先の経済性だけを考えればとんでもない話だが、ドイツを例に見るとそうして守られてきたまちこそが活気を保ち、全体として経済的にも成功している。個々には不便なようでも、エゴを抑制したまちの方が結局は多くの人がハッピーになれる。
「ドイツのまちづくりが……、だから日本も……」のような短絡的なことを書くつもりは毛頭ない。日本には日本のやり方があり、試行錯誤と回り道をしながら地域の実情に適した独自のまちづくりをするよりほかない。それでもドイツと日本で共通する部分があるとすれば、それは「歩いて楽しいまちこそ、魅力的で健全な社会の基礎であること」。筆者はこの点に確信を持っている。
関連記事
- 目立つ環境問題は姿を消し……「ライン産のサケ」が食卓に戻ることを願う
ドイツでは多くの環境問題がひと段落し、今は水辺の環境保全に関心が集まっている。もちろん地球温暖化などの課題は残っているが、健康被害を及ぼす問題はなくなり、新たなテーマとして水辺再生が浮上している。 - 相互乗り入れで便利になるかも? 鉄道とトラムの融合
ドイツの中核都市と周辺都市を結ぶ「都市鉄道(Sバーン)」と都市の中を走る「トラム(路面電車)」を相互乗り入れしたら便利になるのでは? そんな発想から出発し、鉄道とトラムを接続したカールスルーエ市。今回の時事日想は、鉄道初の事例を紹介しよう。 - トラムが走る街とトラムが創る街
地元商店街の「車がなければ商売は成り立たない」という固定概念を覆した、欧州の新世代トラム(路面電車)。路線バスや鉄道を合わせ、地方の公共交通網をどのように存続させるか。そこには、「交通弱者を切り捨てないために赤字を容認する」という思想がある。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.