アニメを“絵空事”にしないために――『サマーウォーズ』のロケハン術(6/6 ページ)
文化庁は10月22日、東京国際映画祭のイベントとして「ヒットアニメに学ぶロケハン術」を開催、8月に公開されたアニメ映画『サマーウォーズ』の細田守監督が、東京藝術大学の岡本美津子教授や信州上田フィルムコミッションの原悟氏とともにアニメにおけるロケハンの重要性について語った。
アニメ制作でロケハンをする意味とは
岡本 オリジナル脚本のアニメを作る場合、ロケハンをすることで土地から得られたパワーが企画に好影響を与えるといったことはあるのでしょうか?
細田 それはずいぶんあると思います。先ほども言いましたが、アニメというのは雰囲気で描いてしまうと絵空事になってしまうような危うい世界です。そのため、リアリティが必要になるのですが、そこでビジュアルのリアリティだけではなく、歴史も含めたトータルなその場所の力みたいなものが必要な時があるのではないかと思います。
舞台となる土地に触れることで、「こういう主人公像があったら面白いだろうな」と内側から創造されるようなことがあります。例えば『サマーウォーズ』では、登場する親戚の人たちにバイタリティがある、やらなくてもいいようなことをやるみたいなバイタリティあふれたところがありますよね。そういうところと、上田市の人のバイタリティみたいなところがどこか共通しています。それは妻の父母や祖父母、原さんや市役所観光課の方のバイタリティのありようや、歴史的にも徳川軍を倒したという力が、映画の内容に影響しているような気がします。
岡本 風景だけではなく、歴史や風土、人など全部が企画のヒントになっていくと。
細田 主に人なんじゃないかなと思うんです。そして、人を裏打ちするのが風景というか土地のものなのではないかと。風景がきれいだとか、●●で有名だといったことではなく、そこに住んでいる人の気持ちみたいなものが作品内容とどこかシンクロすると、土地の説得力が映画に説得力を与えてくれるみたいなことがあるのではないかと思います。だから、ビジュアルのリアリティということ以上に、そういう意味合いを映画に与えてくれるという点で、ロケハンはとても重要なことなんだという気がします。
岡本 私はアニメーションを教えているのですが、「ロケハンをしなさい」とはアニメーションの教科書のどこにも書いていないですよね。でも、監督のお話をうかがっていると、ロケハンというのはアニメーション制作のプロセスにおいて、大変重要なことではないかという気がしてきました。
細田 特に映画はそうですね。スタッフが現地の人と触れられるということで、ロケハンというのは大きな意味があるのではないかという気がします。
岡本 聞きそびれる前に聞いてしまいたいのですが、監督、次回作のご予定は?
細田 おかげさまで『サマーウォーズ』は本当にたくさんの方に見ていただけたので、また次の映画を作れるチャンスがどうやらありそうだ、くらいのことしか言えないですね。映画というのは1本1本の成否が重要なので、次も作れると思ったら大間違いということがあるのです。ただ、『サマーウォーズ』はみなさんに見ていただけたので、また次の作品を作ることが可能になりそうです。
岡本 会場のお客さまからも1つだけ質問を受けたいと思っているのですが、いかがでしょうか?
――上田市でのロケハンについては分かったのですが、『サマーウォーズ』の場合、上田市とともにネットも物語の舞台となりますよね。ネットでのロケハンについても教えていただけますか?
細田 『サマーウォーズ』は現実の上田が舞台でありながら、OZ(オズ)という電脳世界ももう1つの舞台になっているのですが、企画当時ですとmixiの風景が一番大きなロケ地だったのではないかというような気がします。集団で銃を持って戦うというXboxのゲームを友達の家で見たことがあるのですが、バトルシーンはそれを垣間見た感じではありますね。アニメーターの時はゲームをやっていたのですが、演出家になってからは実際にやってはいないですね。だから、mixiが一番のロケ地だったのではないでしょうか。
そこでロケハンをする場合も、先ほどの上田市と同じように、ビジュアルがどうというようなことではなく、その中にどういう人がいて、どういうしゃべり方をするかみたいなことを見ることが大事だったと思います。今だったら、Twitterがロケ地になるでしょうね。
岡本 セキュリティの研究などでは相当ヒアリングをされたと聞いていますが。
細田 いやあ、全然していないですね。どちらかというとネットの世界のことはあまり調べていないです。それより上田市のことや、真田家のことの方を一生懸命調べていました。『サマーウォーズ』は結構ネット世界が出てくるので、SFっぽい内容に見えますが、僕はSFとは思っていません。「人が頑張るところが心地よい」みたいなところを核に作って、その舞台としてネットの世界みたいなことが加わるという形です。
実際のネットでも、場を楽しくさせているのは参加している人だと思います。だから、ネットのシステムをガチガチに描くのではなくて、ある種の人間性みたいなものをより大事にする方向で作ってきました。それもあって、mixiを参考にしたくらいだったのかもしれませんね。
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