動物クレヨンからチョンマゲ羊羹まで――“そうなのか!”があるデザイナー南政宏:郷好文の“うふふ”マーケティング(3/3 ページ)
チョンマゲと羊羹を組み合わせる奇抜な発想で、Tokyo Midtown Award 2009のグランプリを受賞した南政宏氏。“暮らしデザイナー”として注目される彼の発想の原点を探ってみた。
ハイブリッドベア
次いで『溶けた氷上のクマたち』を創った。“ハイブリッドベア”がモチーフ。
地球温暖化の影響で北極の氷が溶け、アラスカのホッキョクグマは住む場所が縮小した。一方、カナダに生息するグリズリー(ヒグマ)も、より高い緯度で生息するようになった。割れて薄くなる氷を媒介にして、2つの種のクマが出会い、外見はホッキョクグマ、いかり肩はグリズリー、顔つきは両者混合のハイブリッドベアが生まれた。それを白と茶の混合木馬に表現した。
「環境変化を悲観しても仕方ないんです。生物の進化の1つのステップとも考えられるんですよ」
異なる種の出会いを、人種を越えた愛の物語や、進化のプロセスと受けとめてもいい。ハイブリッドベアは、2匹の動物を足して2で割ったような顔つき。決して環境破壊が生んだゴジラではない。奇形でもない。進化は今も起きている。眉をつり上げて環境破壊を説いても、子どもは「ハハン?」とするだけ。むしろ夫婦2人でその上にまたがる子どもを支える――そんなメッセージをデザインにこめた。
デザインとメッセージの統合
クレヨンからハイブリッドベア、そしてチョンマゲへ、彼の表現は進化した。デザインにウンチクを言わせるのではなく、デザインとメッセージを統合した。その作品からは環境や進化、動物の絶滅、京都や江戸の交易のうんちく、流行語やテレビ番組にまで連想が広がり、いろいろな会話が生まれる。
環境、暮らし、メッセージが1つになり、よく味わうと「そうなのか!」がある。そんなデザイン発想ができるのはなぜなのだろうか? そのヒントは“盆地”。「好きな場所を挙げてください」の問いの答えは盆地だった。6歳のころから四方を山に囲まれた奈良盆地の西端、豊かな自然の地で育った。
「山に囲まれていると、安心するんですよね」
シルクロードの東端、果ての地、奈良平城京がかつてあった盆地は、やがて大阪や京都のベッドタウンとして開発が進んだ。宅地造成の盛土をグリーンに見立てて、木の枝を手づくり加工したゴルフクラブで遊んだこともあった。1000年以上の歴史と、自然と暮らしが一体の盆地。そこからプロダクトや家具、建築、地球環境へと発想が広がる。
エコか低価格かそのどちらか――無個性で無感動な商品市場と化した日本。南さん、手にすると楽しくて、会話が生まれるデザインで日本を変えてチョンマゲ。
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