深夜2時までチェックインOK――ホテル五龍館のお客さま視点(2/2 ページ)
不況で多くの企業の売り上げが減少している昨今。しかし、世の中をじっと見つめてみると、ちょっとした気付きで、成功を引き寄せている企業はたくさんあるもの。その1つが、チェックイン・チェックアウトのやり方を顧客の都合にあわせているホテル五龍館だ。
チェックアウトでも差を付ける
さらに、チェックインだけではなく、チェックアウトのアイデアも秀逸だ。
一般の温泉ホテルに泊まる際、本当は「朝風呂にゆっくり入りたい」のに、例えば朝食の時間が7〜9時と決められているがゆえに、朝食の前に急いで入ったり、朝食後に入る場合でも、チェックアウトの時間を気にして、ゆっくり入れなかったりしたことはないだろうか? 朝風呂の時間を確保するために、朝食を急いで食べたり……という経験のある人も少なくないはず。せっかくリゾートホテルにくつろぎに来ているのに本末転倒。最悪の場合は、寝坊してチェックアウトで精一杯→朝食を食べ逃した、なんて人もいるかも。
特に女性の場合は化粧をする時間も必要なので、ゆっくりと朝風呂を楽しめる時間が実はほとんどないのだ。
その点、このホテルは「朝食はゆったりと11時までいつでもOK!(チェックアウトは10時)」となっており、朝にゆっくり温泉に入れるし、もし寝坊しても、チェックアウト後に朝食をとれるので、「朝食に間に合わなくて損した」なんてこともない。
ここでも、「チェックアウトは11時まで」と単に告知するだけではなく、チェックアウトが11時になることによって、「朝食がゆっくり食べられる」というベネフィット(お客様の便益)を伝えているのが秀逸だ。
日常生活であれば、朝食が7〜9時というのは普通かもしれない。その流れで朝食の時間帯を決めれば、ホテル側は食事の準備や後片付けなどをまとめて行うことができ、従業員の労働計画も立てやすい。しかしそうした食事時間の細かな設定などは、「ホテル視点の発想」とも言えるのである。
ここで改めて、お客さま視点で考えてみたい。お客さまはリゾートホテルに“非日常”を味わいに来ているわけで、「できるだけゆっくり過ごしたい」「自分のペースで過ごしたい」というのが本音だろう。
「朝、ゆっくり過ごしたい」というお客さまの欲求に対し、次のお客さまのために部屋の清掃など、「準備を始めなくてはならない」ホテル側の業務。この2つを共存させるための仕組みこそが、「チェックアウトは10時→でも、朝食はゆったりと11時までOK!」なのである。
答えはいつもお客さまの中にある
チェックイン・チェックアウトのような、ホテルとしては最も基本的な業務でさえ、お客さまをじっくり観察して、そのニーズをつかむと、新しいサービスのヒントが見えてくる。
お客さまの視点に立ったこの2つのサービスは、言われてみれば「誰でもできそう」なのに、なぜか「誰もがやっているわけではない」サービスなのである。そしてそのことは、結果的に、他社との差別化を生む一要素になっている。もちろん、探し出したヒントを「実行」に移す力も大切であることは言うまでもない。
これまで述べてきたことは、1つ1つを見れば、そんなに大きなサービス改革ではないかもしれない。しかし、「リゾートホテルとは何か」を考えさせられる良い事例だと、筆者は感じている。
逆に、これがビジネスホテルであれば、「朝、ゆっくりくつろぎたい」欲求よりは、「チェックアウト時、フロントの混雑の中で待たされるのが嫌だ」など、より実務的な欲求が強くなってくるのではないだろうか。
ワシントンホテルグループや、ダイワロイネットホテルグループが採用している、カードを通すだけでチェックアウトができる「自動チェックアウト機」は、まさに、そんなビジネスパーソンの欲求をつかんだサービスである。
その意味でも、不況でモノが売れないと嘆いている人は、もっともっとお客様の視点で、次のサービスのヒントを探してみてはどうだろう?
成功のヒントと売れる仕組みのアイデアは、きっとそこら辺にごろごろ転がっているはず。そう、「答えはいつもお客様の中にある」のだから。(小野寺洋)
関連記事
- 内藤VS.亀田戦が教えてくれた“優良コンテンツ”作りのヒント
ボクシングの内藤VS.亀田戦が43.1%という驚異の視聴率を記録した。この番組コンテンツには“優良コンテンツ(=優良商品)”を作るためのマーケティングノウハウがぎっしり詰まっていることに気付いただろうか? - 「ゆかた美人コンテスト」で優勝する方法とは?
日本の各地で毎年、計100回以上も行われている「ゆかた美人コンテスト」。54冠の実績を持つ“ミスコンの女王”白石さおりさんが、こうしたイベントを勝ち抜くためのヒミツを教えてくれた。 - 『咲-Saki-』『鋼の錬金術師』の田口浩司プロデューサーが語る、儲かるアニメの作り方
『咲-Saki-』『黒執事』などのアニメ化を手がけたスクウェア・エニックスの田口浩司氏は10月6日、JAPAN国際コンテンツフェスティバルのイベント「劇的3時間SHOW」に登場、出版社が利益を確保するためのアニメプロデュースの方策について語った。
関連リンク
Copyright (c) INSIGHT NOW! All Rights Reserved.