「釣った魚にエサをやれ」――既存客へのマーケティング(2/2 ページ)
見込み客が購入してくれるまでは熱心にアプローチするものの、顧客になった途端、見向きもしなくなり、新たな見込み客のハンティングに執心する……という営業活動はどこの企業でもあるもの。そんな中、資生堂やガリバーインターナショナルでは既存客を重視したマーケティングに取り組んでいるようです。
既存客の紹介を通じた販売に倍の評価
中古車買い取り事業のガリバーインターナショナルでも、2009年4月ころから、興味深い評価体系を導入しています(日経情報ストラテジー、FEBRUARY 2010)。
同社では、「SP-PRO(スマートカーライフプランナープロ)」という営業担当職を新設しました。彼らは、毎月20件くらいまでは来店客(新規客)の対応ができます。しかし、それ以外は過去の取引客からの紹介を通じて商談しなければならないということになっています。
そして、紹介を通じた販売については、来店した新規客に対する販売の2倍の評価を与えるのだそうです。例えば、紹介で10台販売したら、新規販売20台分の販売実績と同等とみなし、給料にも反映されます。
そのため、SP-PROの人たちは、これから取引するお客さまに対して“売ること”ではなく、むしろ“喜んでいただくこと”“信頼を得ること”に尽力するでしょうし、既存客との関係性を深めるため、フォローサービスにも身が入るようになるというわけです。
同社会長の羽場兼市氏も認めていますが、この仕組みは「非効率」なやり方ではあります(あくまで短期的には)。なぜなら、1つの商談に十分な時間をかけるようになるでしょうし、目先の売り上げにはなりにくいフォローサービスに、より多くの時間を割くことになるからです。
しかし、この仕組みの狙いは「5年、10年先にはSP-PROの力が大きく発揮されているだろうと思います」(羽鳥氏)ということなのです。すなわち、長期的なリターンを狙う「既存客への投資」を行っているのがSP-PRO制度だと言えます。
実は、いわゆるCRMに成功している企業の共通点は「既存客への投資」に踏み切り、その成果が顕在化してくるまでのおよそ5〜10年の間、目先の業績向上を我慢した点にあります。
既存客への投資は、当初は販売実績の停滞や利益率の低下にどうしてもつながりやすい。したがって、目先の効率を犠牲にしても、顧客サービスに力を入れる企業体制の構築を主導できるのは経営トップだけです。
ガリバーの例も資生堂の例も同様ですが、CRMの成功には経営トップの強い意志が不可欠だということを痛感せざるをえません。(松尾順)
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