電子化は雑誌の“救世主”になるのか?:郷好文の“うふふ”マーケティング(3/3 ページ)
出版不況が深刻化している昨今。電子化の波に乗ろうと、各社が雑誌のデジタル配信に取り組んではいるが、成功しているところがあるとは言いがたい。雑誌が生き残るためにはどうすればいいのか? その条件を考えてみた。
雑誌の楽しさとはドリーミング
雑誌の楽しさの私の原体験を語ろう。小学校低学年のころの愛読誌は『タミヤニュース』。プラモデルの田宮模型が発行するPR雑誌だ。当時ハマっていた1/35ミリタリーシリーズの新製品情報を始め、小さな定期購読冊子を隅々まで読みふけった。机で読み、布団の中で読み、一字一句メモリーした。「シュビムワーゲン(水陸両用軍事車両)の発売まであと10日だ」と指折り数えては夢をふくらませて忘我した。
中学生になるとエロ雑誌で忘我した。いかにも高校生という顔をして、恥を忘我してレジに向かう。火照る顔、ドキドキする胸。お金を払う。心臓の鼓動を包装紙に包んだエロ本でおさえ、店を出る。帰り道は秘密を持つ少年だ。1人になりページをめくる。美姿態に忘我した。
雑誌の楽しさとは“ドリーミング”なのである。好きなことの夢を見させてくれる。優れた編集者、ライター、写真家、挿絵家がタバになって「どうだ、まいったか」というのが雑誌の魅力である。電子雑誌はまだドリーミングまで到達できないと思う。
ダイレクトとナマで雑誌苦境を乗り切ろう
とはいえドリーミングだけでは救えないのが雑誌の苦境。忘我のクオリティを維持してもらうためのアドバイスは“ダイレクト”と“ナマ”である。
ダイレクトとは直販。日本の雑誌販売は8割が書店流通、2割が直販とされる。米国はこの逆で8割が定期購読、2割が店売りである。損益分岐点まで定期購読の直販比率を高め、「売れるだけ刷る」という姿を目指す。それには購読者データベースやニーズを探る仕掛け作りが必要。ニーズを知ってコマース強化を図ろう。限定品や掲載商品などの販売収入を増やし、広告一本足から脱出する。
コマースはナマが良い。定期購読者へのナマ特典として、ナマの参加体験、ナマツアー、ナマ写真、ナマ撮影会、ナマのおまけグッズなど読者と雑誌の作り手が交流し、夢をふくらませてもらう。撮り鉄もナマの被写体への大接近で身を震わせるのだ。
日経でさえ有料電子新聞の成功は怪しい。雑誌はコアな読者を絶えず広げ、育て、ともに歩むのが王道である。
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