化繊の悲しさ――“お土産進化論”から見た経済格差:ちきりんの“社会派”で行こう!(3/3 ページ)
高いもの、価値があるものは、国や時代によって異なります。そのため、“お土産”に選ばれるものの違いから、その社会の背景や経済構造が浮かび上がるもの。将来の私たちが“価値”を認めるものはどんなものになるのでしょう?
国によって異なる商品価格
ちきりんがこのことに最初に気が付いたのは、20年くらい前にビルマ(今は“ミャンマー”ですね)に行った時です。そこで純銀の指輪が50〜100円くらいで売られているのを見つけたのです。デザインはダサダサですが、それにしても安い。精製が甘くてあまりきれいではなかったのですが、日本で調べてもらったら本当に銀でした。
ところが、同じビルマの市場ではポリプロピレンかプラスティックの小さなカップ(幼稚園児が牛乳を飲む時に使うようなもの)が、100〜200円もするんです。そんな高い容器を買える人は少ないので、もちろん高級品として売られていました。
で、いろいろ聞いて分かった。銀はその辺の人が鉱石を掘りに行って、家内工場的な田舎の工場で原始的な方法で精製したり成型したりしているらしい。基本的に手作り。しかも銀鉱石が出るエリアへの立ち入りが規制されていないから、日本で言うと“裏山に栗を拾いにいく”感覚。
一方でポリプロピレンのカップは、タイや中国から輸入されている。ということは、非常に貴重な“外貨”がないと買えない。ビルマにはそんなものを作る技術力も工場もないし、ビルマの通貨はドルとは交換できない。というわけで“ドルの裏付けがある、落としても割れない魔法のコップ”が銀の指輪より高くなるのです。
鶏肉が牛肉より高いのにも驚いた。「何で?」と聞くと、結局のところ、鶏も牛もその辺りにうろうろしている(させている)だけ。あちこちに牧草があって牛も鶏もその辺でウロウロして育つなら、牛の方が効率がいいんです。牛は1匹殺すと大量の肉が手に入りますが、鶏で同じ量の肉を得ようとするとすごく手間が掛かりますから。
日本だと鶏はブロイラーとして鶏舎で飼うので、放牧が必要な牛に比べて、圧倒的に生産性が高い。それに牛を放牧させるには、それなりの面積が必要なのに日本は国土が狭く地価も高いですよね。
というわけで、日本では「牛肉>豚肉>鶏肉」の順に価格が高いことが多いですが、この順番は国によって違います。米国では鶏肉は牛肉とほぼ同じか、部位によってはむしろ高いです。あの国は“牛肉製造の生産性”も非常に高いので、牛肉が安いのです。
というわけで、「何が高いかというのは、結構その国の産業の仕組みや生産の仕組みを表すんだな」と思いました。そしてそれ以来、旅行する時には野菜や肉の価格をよくチェックするようになりました。
化繊の悲しさ
さて今日のタイトルを振り返ってみましょう。「化繊の悲しさ」とはどういう意味か?
「化繊を(麻や絹や綿より)ありがたがる国の状況ってのは悲しいな」と思ったのです。もちろん日本だって少し前まではそういう時代だったのでしょう。「しわの出来ない魔法の繊維」「自然素材ではあり得ない発色と光沢!」とか言われていたのだと思います。
だとすると、「私たちは10年後、20年後に何をありがたがっているだろう?」と思うのです。未来からみたら、今の私たちが熱狂している商品も「悲しい」感じがするのかな、と。「あの時代はこんなものをありがたがっていたんだね」という時代が来るのかもしれません。
そんじゃーね。
著者プロフィール:ちきりん
関西出身。バブル最盛期に金融機関で働く。その後、米国の大学院への留学を経て現在は外資系企業に勤務。崩壊前のソビエト連邦などを含め、これまでに約50カ国を旅している。2005年春から“おちゃらけ社会派”と称してブログを開始。
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