“買う”を超えて考えない企業は行き詰まる(2/2 ページ)
外食企業の農業参入への動きが進んでいます。この背景には、食の安心・安全意識の高まりや農業をめぐる規制緩和のほかに、経営の前提が変わっていることにもあります。原料・素材の確保について考えなければいけないのは、他産業にも当てはまること。経営の前提の何が変わり、それにどう対応すべきかを考えます。
“買う”を超えて考える
このような中で調達・購買部門としては、便乗値上げの防止、モノの確保といったこと以外にできることは短期的にはありません。仕様の変更による使用量の削減、代替素材への切り替えの検討など、ほかに手がないことはありませんが、これらはどちらかというと中長期的な取り組みになります。
ほかにもメジャー化するサプライヤに対抗する上での共同購買、同業他社や類似業種との事業提携、M&Aによる統合といった手はあります。また、資源を直接確保するといった意味での川上との垂直事業提携、資源権益への出資、川上企業の買収といった手もないわけではありません。
しかし、これらも短期的な手段ではなく、中長期的なものです。原料・素材分野で調達・購買部門が短期的にやれることはあまりない、これが現実なのです。
だからこそ、短期的に目の前のものを確保するという問題の解決に追われるだけでなく、中長期的な代替手段を同時に考えていく必要があります。どの原料、素材分野であっても、こうした構造変化の動きを肌で感じているのは、経営者ではなく、その市場に日々対面している調達・購買部門とその担当者です。
相場を張ったり、交渉するといった短期的な手段では、もうすぐ行き詰まりが来ること、使用量の削減や代替素材、事業提携や川上への出資など、自身の担当している市場で最も有効な方策は何なのかといった中長期な戦略についての情報発信ができるのは、調達・購買部門とその担当者にほかなりません。
外食企業にとどまらず、さまざまな業種において、「事業提携やM&Aは経営者が考えること」「自分達は目の前のものを1円でも安く買うのが仕事」という、モノを「買う」という発想を超えた中長期的な調達・購買戦略の提唱、推進が調達・購買部門の1つの大きな役割になってきています。(中ノ森清訓)
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