くう、ねる、そして――自然写真家、糞土師 伊沢正名さん:あなたの隣のプロフェッショナル(7/7 ページ)
今回のインタビューのテーマは「真面目な排せつ物の話」。食事中の方、排せつについての話題に抵抗がある方は決してこの続きを読まないでいただきたい。了承してくださった方だけ、さあ本文へ。
若い女性たちの力に期待
「分解」あるいは「責任」というキーワードを日々意識することによって、今まで解決困難だったさまざまな問題に何らかの糸口が見えてくるとすれば、それは日本人はもとより、人類の未来にとっても素晴らしいことだ。伊沢さんが我々に期待していることは、まさにこうしたことなのかもしれない。
そしてもう1つ、伊沢さんが願うのは、個々の日本人の人生に心からの笑顔を取り戻すことではないかと、私は思う。『きのこ博士入門』に見られる伊沢さんの、日陰者のキノコを初めとする、生きとし生けるものへの愛情がそれを物語っていよう。
しかし伊沢さんをめぐる日本国内の状況は、必ずしもフォローの風ばかりではないようだ。「学会発表とか展覧会、あるいはマスコミの取材、いずれもそうなんですが、せっかくお話をいただいても、私が“糞”という言葉を出しただけで、話がボツになってしまうんです。下品だ、汚らしい、スカトロジーだと感情的な反発・拒否に遭うのですが、そうした非難や罵倒の先頭に立つのは、常に“良識派”と呼ばれるインテリエリート層の男性たちなんですよ」
伊沢さんが、あえて糞土師というアイデンティティを確立したのは一体なぜなのか、伊沢さんは我々にどんなメッセージを送ろうとしているのか、それを正しく見極めようともせず、ただ“糞”という言葉に激しく生理的な拒絶反応を示すインテリ男性たち。
「私がイベントセミナーなどをやったときに、一番熱心に話を聞いてくれるのは、実は、若い女性たちです。やはり、女性には、強い生命力があるなあ……と実感します」。
伊沢さんは4年前、自ら「糞土研究会」を立ち上げた。それを母体に日本全国ですでに60回近い講演を実施し、会員は、すでに100人を超えたという。会報誌「ノグソフィア」の発行も順調で、会報誌を拝見するとさまざまな職業で活躍する女性たちからの投稿記事が目に付く。
「あと、世界的に活躍する登山家とか冒険家の方々のグループからも呼んでいただいて、お話をさせていただいていますよ」。命がけで大自然と触れ合い、それを通じて大自然を畏れ敬う気持ちをもった人々には、伊沢さんの思いがストレートに伝わるのだろう。
余談ながら、伊沢さんのご家族は野糞を一切なさらないという。「いやいや、それで良いんですよ」と伊沢さんは笑う。「家族からの反対意見があった方が、自分の立ち位置がはっきり分かっていいんです。イエスマンばかり回りにいたら“裸の王様”になってしまいますからね。3年、5年、10年後、私はどうなっているんでしょうね? それは私にも分かりません。でも、その時その時の運を掴むのは得意だと思っていますよ」
「ウンコだけに運(ウン)が強い?」……そう言いかけて、私は言葉を飲み込んだ。
これから先、伊沢さんの思いは、多くの日本人の心に届くのだろうか? 伊沢さんのメッセージを正しく受け止めようとする人が、1人でも多く現れることを祈りたい。
嶋田淑之(しまだ ひでゆき)
1956年福岡県生まれ、東京大学文学部卒。大手電機メーカー、経営コンサルティング会社勤務を経て、現在は自由が丘産能短大・講師、文筆家、戦略経営協会・理事・事務局長。企業の「経営革新」、ビジネスパーソンの「自己革新」を主要なテーマに、戦略経営の視点から、フジサンケイビジネスアイ、毎日コミュニケーションズなどに連載記事を執筆中。
主要著書として、「Google なぜグーグルは創業6年で世界企業になったのか」、「43の図表でわかる戦略経営」、「ヤマハ発動機の経営革新」などがある。趣味は、クラシック音楽、美術、スキー、ハワイぶらぶら旅など。
→Blog:嶋田淑之の“不変と革新”ブログ
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