ビジョンや行動規範では足りない! “物語”が会社を強くする(2/2 ページ)
企業の組織風土を後輩たちに受け継いでいこうとした時、最も使えるものは何だろうか。筆者はビジョンや行動規範を策定するだけではそれほど効果はなく、それよりも先人の物語を伝えた方がいいと主張する。
大切なのは物語
しかし、企業というものを考えた時、ここに学べるものがあります。きょろきょろせず、他社や周囲との比較検討に時間や気持ちを奪われることなく、自ら設定した標準や軸に基づいて考え、行動できる人たちが揃う会社になるためにどうすれば良いのか。そこにいる人たちが日本人であればきょろきょろの癖は直らないとしても、程度の問題として、その企業に属する人間にふさわしい言動を迷いなくとり続けられるようにするために、どうすれば良いか。
この答えの1つが、内田さんの言われる“初期設定”なのではないかと思います。しかしながら、これを単なるビジョン、企業理念、行動規範、経営方針といったもの、ましてやクレドの作成などと混同してはなりません。
『日本辺境論』には“物語”という言葉がよく登場するのですが、初期設定とは、ビジョンや企業理念、行動規範、経営方針といったものに物語が付いている状態ではないかと思います。受け継ぐに値する最初のころや昔にあったエピソード、背景や登場人物や状況を踏まえた迫力ある実話、そしてその時に行った思考や判断、言葉や行動こそ、初期設定を作文レベルからDNAのような1人1人に埋め込まれたレベルにしていくのではないかということです。
ビジョンも良い、理念や行動規範の存在も良いと思いますが、創業者や、苦労の末に危機を乗り切り、チャンスをものにして会社を形作ってきた人たちの、心と頭の奥底が伝わる昔話や伝説を大切にしている会社こそ、本当に強い組織になれるのではないかと考えます。
「昔話や伝説の意味するところはこういうことだよね」といって、きれいにまとめた結果を配っても、それが人々の心を動かし、言動に影響を与えるかどうか。先輩たちからたくさんの物語を聞かされてきたことによって、自分の属する組織にふさわしい考え方や言動を考え、理解してきたことを思えば、クレドなどを作るよりも物語を語る場を作り、物語を伝えていくことに腐心すべきではないだろうか。研修でも汎用的なケーススタディではなくて、自社にある物語をケースとして用いればよいはず。
変化することが必要な時代、グローバル化が進展していく時代に昔話など逆効果だという見方もあるでしょうが、変わらずに大切にすべきものはあるはずです。(川口雅裕)
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