時間と空間をゆがめるのが特徴――ジブリ・鈴木敏夫氏が見る日本アニメの現在と未来(後編)(5/5 ページ)
スタジオジブリ作品のプロデューサーとして、さまざまなヒット映画を手がけてきた鈴木敏夫氏。ASIAGRAPH2010で創賞を受賞した後に行われたシンポジウムでは、声の出演に俳優を起用する理由や、日本アニメの特徴やその未来について語った。
日本のアニメや漫画はどのように再生するのか
鈴木 ただ、僕はその伝統がついについえるかなという実感があります。なぜかというと、昨今の漫画を読むと、誇張表現がどんどん減ってきているんです。また、アニメーションは日本ではなくて、中国で作られるようになっている。
参考までに申し上げると、さっき言った建築の違いについてですが、日本と中国ではありえないくらい違うんです。中国はシンメトリーで作っていて、上から見たらある形になっているんです。そうすると中国は実は西洋文化圏に入ってしまうんです。全体を決めないで部分にこだわってやっていくというのは、どうも日本と韓国の特徴なんですよね。言語の文法も関係あるのかなという気もちょっとしています。(国語学者の)故大野晋さんも、日本語はタミル語から来ているんじゃないかとも言っていますしね。
この辺は僕は受け売りで言っているだけなのですが、こういうまったく違ったもの、普通だったら相容れないものがあるとしたら発見なんですよ。だけど、それが普及し、定着するかというのは分かりませんけどね。
ピクサーの方とそういう話をしたのですが、例えばピクサーにはいろんな資格をとっていないと入れないんですよ。基礎的なことはすべて、学校時代に習うんですね。一方、ジブリは1枚の絵を見て、良かったら入れてしまうんですよ。これは大きな差ですよね。
西村 でも、ピクサーはジブリの影響を受けているし、仲も良いですよね。
鈴木 これは(宮崎氏と)ジョン・ラセターという人との個人的な付き合いから始まったんですけどね。それで結果として、ジブリとピクサーが仲良くなったんです。
米国でアニメーション映画を作るといったら、ディズニーが発明したいわゆるミュージカル映画しかなかったんです。ところが、ジョン・ラセターが若い時に『ルパン三世 カリオストロの城』を見たら、ミュージカルじゃないわけですよ。ちゃんと普通の話をやっていて、これに衝撃を受けて、宮崎駿への尊敬が始まったんです。「日本ではこんなことをやっているのか」と思ってほかのものも見てみたら、みんなそうやって作っているので、もっとビックリしたわけですけどね。
西村 西洋と日本は違うとおっしゃっていましたが、日本アニメが世界的に広がっているというのは身をもってお分かりになっていると思うのですが。
鈴木 そんなに広がっていないです。今のところ、驚いているだけではないかなと。
西村 日中関係がぎくしゃくしていますが、中国の学生でも文化面で日本に興味を持っている人が増えているという話も聞きました。
鈴木 でも、どうなるんですかね。先ほども申し上げましたが、日本はアニメーションも漫画も今、風前の灯ですから。だから、この伝統がついえるのかなという気がしていて、どういう形で新たに別の形で再生するのかに興味を持っていますけどね。日本のアニメーションなんて95%は日本で作っていなくて、中国で作っているんです。
それに漫画をみんな本当に読まなくなったですよね。小学館や集英社、講談社などの漫画の売り上げって、いつの間にか(全盛期の)半分以下になってしまったんですよね。
最近仕入れたネタなのですが、たった150年前の1861年にイタリアが統一されるんですね。その時にイタリア語を話せたのは3%で、97%はイタリア語を話せなかった。それを1つの国にまとめるために国家主義というものが出てきて、イタリア語を普及させていった。1つの国を作って支配するには言語が大事ですから。フランスだってそうですよね。
それぞれの民族や風俗、生活習慣がありながら、1つの国としてまとまっていくために、欧州では理性がとても大事にされてきました。それが今、崩れ始めている時代ですよね。理性と感性のどちらかが優勢になり、どちらかが劣るようになる。それを繰り返してきたのが人間の歴史じゃないかなという気がしています。その崩れれかかる時に日本のアニメーションや漫画が役に立ったという気が僕はしているんです。今ちょうど理性が崩れ始めているから、一部の外国の人がそれをもてはやしている。
しかし、この先はどうなるんですかね。中国は実は感性の国ではなくて、理性の国なんですね。フランスもそうですが。そういう国、例えば中国が世界を制覇しようとする時に、日本のそうしたものがどうなっていくのかということに僕はちょっと興味があります。
西村 もう変わりつつあると思ってらっしゃいますか?
鈴木 思っていますね。実際、世界の一部が騒ぎ始めた時、日本の足元はもう終わり始めていますからね。だいたい歴史というのはそういうものですが。
今、僕らはコンピュータで映像を作るとかいろんなことが起きている中、手作りでずっとやっています。僕と宮崎が現役でいる間はそれにこだわりたいと思いますが、その後、誰がどういう形でやっていくかというのは見守りたいですね。ただ、みんなダメになるので、若い人にとってはチャンスですよ。
西村 そうですね。最後に次の作品の構想を。
鈴木 ポテンシャルは今、作り始めています。まだ発表の段階ではないのですが、12月に発表します。
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