空港ではたらく個性豊かな“特殊車両”たち。それぞれの任務・役割は?:秋本俊二の“飛行機と空と旅”の話(4/4 ページ)
滑走路に降り立った旅客機がターミナル前のスポットに誘導され、停止すると、普段あまり見かけることのないさまざまな形をした車両が集まってくる。それはまるで、お菓子に群がるアリのよう。空港で活躍する特殊車両の任務・役割に注目してみよう。
雪国の空港に欠かせない特集車両も
空港ではほかに、「化学消防車」や「デ・アイシングカー」など特殊な任務を負った車両も待機している。旅客機には大量の燃料が積まるので、火災の際には大事故にならないよう、すばやく火を消し止めなければならない。空港の消防車両は一般の消防車とは違い、装備した大量の水や消火薬剤を短時間に放射できるのが特徴だ。一方のデ・アイシングカーは、とくに北国の空港などで活躍している。
旅客機の運航にとって、雪はとてもやっかいなもの。主翼に降り積もった雪や付着した氷は、飛行に大きな影響を及ぼす。そのまま放置すれば、旅客機の離陸性能は大きく低下。本来、翼の上面に空気が流れることで発生する揚力が、付着した氷による翼面の形状変化で得られなくなるからだ。アメリカのNASAが行った実験では「翼に0.8ミリの厚さの氷が付着すると、離陸時の揚力が8%失われる」というデータも報告されている。そこで出番となるのが、雪の降る地方の空港で冬場になると待機しているデ・アイシングカーという特集車両だ。
機体に付着した雪や氷をわずか15分で除去
デ・アイシングカーは、その名のとおり「デ・アイス(除氷)」する──つまり凍りついた機体の表面に除氷液をかけて雪や氷を溶かすための作業車である。車両の本体部分には約4000リットルの除氷液を積載。これで約10機分の作業が可能だ。以前、冬場に札幌の新千歳空港で取材したときには、JALやANAが配備した10台近いデ・アイシングカーが出番を待っていた。
実際の除氷作業は、大型旅客機なら2台で、小型機は1台で行う。旅客機の大きさに合わせて操縦席は高さが調整できるようになっていて、そこから伸びる細長いブームも伸縮が自在。ノズル先端から機体に向かって勢いよく除氷液が噴出される。ベテラン作業者がデ・アイシングカーの操縦席に座って、ブームの伸縮を巧みにコントロールしながら主翼、水平尾翼、胴体という順に機体の雪や氷の除去作業を進め、15〜20分程度で作業を完了させる。
そしてすべての出発準備が整うと、最後は冒頭に紹介したあの“力持ち”──トーイングカーの出番だ。トーイングカーで誘導路まで押された旅客機は、自力でタキシングを始め、多くの空港スタッフに見送られて次なる目的地へ飛び立っていくのである。
著者プロフィール:秋本俊二
作家/航空ジャーナリスト。東京都出身。学生時代に航空工学を専攻後、数回の海外生活を経て取材・文筆活動をスタート。世界の空を旅しながら各メディアにレポートやエッセイを発表するほか、テレビ・ラジオのコメンテーターとしても活動。
著書に『ボーイング777機長まるごと体験』『みんなが知りたい旅客機の疑問50』『もっと知りたい旅客機の疑問50』『みんなが知りたい空港の疑問50』『エアバスA380まるごと解説』(以上ソフトバンククリエイティブ/サイエンスアイ新書)、『新いますぐ飛行機に乗りたくなる本』(NNA)など。
Blog『雲の上の書斎から』は多くの旅行ファン、航空ファンのほかエアライン関係者やマスコミ関係者にも支持を集めている。
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