DVDだけではないビジネスを模索したい――フジ・ノイタミナプロデューサーが語るアニメの今(6/6 ページ)
フジテレビの木曜深夜で、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』など、数々のヒットアニメを送り出してきた“ノイタミナ”。設立時からプロデューサーとして参加している山本幸治氏は業界セミナーで、現状のDVD販売のみを軸としたアニメビジネスから脱却したいと語った。
視聴者の心に残りやすくするため、2クール化も
――『東のエデン』が初めて一般層とオタク層から受けたという点で功績が大きいということですが、今後、ノイタミナでまた神山健治さんを含めた『東のエデン』のスタッフで何か作品を作りたいなと思われますか。
山本 いろんな監督とやっていきたいですが、神山さんは僕にとってすごい特別な人なので、ぜひやりたいと思っています。
――『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』のエンディング曲でZONEの『secret base 〜君がくれたもの〜』を使った意図を教えてください。
山本 本当の始まりで言うと、シナリオ会議をやっている途中で、ソニーミュージックのプロデューサーとメールのやり取りをしていたんです。「懐かしさがある曲がいい」とか「耳に残りやすい曲がいい」と、青春というキーワードで話をしたのですが、「例えばこういうこと?」ということで、『secret base 〜君がくれたもの〜』が出てきたのです。
その時は賛否が半々くらいで、「ちょっとベタだね」という話だったのですが、その後みんなで話していて、「やっぱりこれだね」ということになりました。「10年後の8月」※とかは最初から意識していて「これは今しかないよね」ということで決める時の理由になりました。
サンキュータツオ 作品がもうシナリオ会議まで入っている中で、『secret base 〜君がくれたもの〜』に出会ったと。
山本 そうですね。5話か6話か、中盤のシナリオ会議のころでした。
また、僕らにとってオリジナル作品には、武器のない怖さがあります。オリジナル作品ではないですが、劇場アニメ『カラフル』(2010年)では尾崎豊やブルーハーツのカバー曲を使っていましたよね。ほかの力を借りたいという発想がすごくあったのです。
――『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』ではスナック菓子などで実際にある商品が出てきましたが、あれとプロダクトプレイスメント※の違いはどういうところにありますか。
山本 昔、『ハチミツとクローバー』(2005年、2006年)や『働きマン』でウイダーinゼリーが出ていたのですが、それは完全にある商業的な条件でやっていました。ただ、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』でやっていたのは、単純に許可をとって使わせてくださいということです。『C』では、許可をとるよりはちょっともじってしまおうということだったので、あまり許可はとっていなかったのですが、その辺は本当は統一したいと思っています。
サンキュータツオ それは実際にあるものを使った方が、作品としてリアリティを出せるということでですか。
山本 そうですね。あれは(ビデオメーカーの)アニプレックスの斎藤俊輔プロデューサーがすごく動きのいい人で、「俺がやる」みたいな感じでした。制作会社のプロデューサーにとっては正直、面倒じゃないですか。OKが出るまで時間がかかったり、使い方を指定されたりするので、そういうのをあまり喜びません。そこは仕掛けようとした、アニプレックスのプロデューサーの鼻がきいていたと思いますね。
――お金を出すこと自体に意義があるというお話がありましたが、現在毎日放送系列で放送している『TIGER&BUNNY』について思うところがあれば教えてください。
サンキュータツオ 『TIGER&BUNNY』はサンライズの作品でロボット(風の衣装を着るキャラクター)が出てくるのですが、ロボットにスポンサーのロゴが張り付いているということで、放送前から話題になっていましたね。「こんなところにスポンサー入れるな」という話もありましたが、ふたを開けてみると結構好評なアニメになっています。あれは新しい商売の形ととらえていますか。
山本 いわゆるF1システムだと思うのですが、あれが毎回できるかというとできないじゃないですか。面白かったですが、あれで本当にビジネスができているかはよく分からないと思うので、僕は別の方式を探っています。ただ、ファンとしては、1つのネタとして笑っちゃいましたね。「うわ、牛角(のスポンサーロゴを背負ったロボット)」とか、心の中で一緒に実況していたので。
いいネタではありましたが、継続していくスキームとしては正直あまり参考にしていないですね。
サンキュータツオ 『TIGER&BUNNY』は地上波以外にUstreamで流すといった実験的な試みも行っていますが、ノイタミナではテレビ以外での放映の仕方を模索したりはしないんですか。
山本 メリットがあればやりたいですね。今は集まってくれている人たちがフジテレビの浅めの深夜枠であることにメリットを感じてくれている人たちなので。それに、フジテレビにはいろいろルールもありますから。
――今後、こういうジャンルを作りたいとかありますか。
山本 ガンダムシリーズがずっと続いていて、仮面ライダーのような戦隊ものが続いていて、ウルトラマンシリーズも続いているのですが、そういうものってなかなかないんですよね。ノイタミナは1クールしかやらない立場なのですが、今後はシリーズ化していきたいですね。
仮面ライダーシリーズだと、とても大人しか分からないようなコンセプトが入っていて、子どもはそこが面白いんじゃないんだけど、後で意味が分かるみたいなのが毎回1ネタはあるじゃないですか。ああいう仕事はとてもすばらしいと思っていて、『TIGER&BUNNY』もそういうラインになりうると思います。
サンキュータツオ 1クールや2クールで終わっても、間を置いて第2期が始まるというような。
山本 でもそのためには「これでやれば絶対当たるところまでいくんだ」みたいなコンセプトがいると思うんです。社会派みたいなこととか、何かがいると思うんですよね。
――ノイタミナでは30分アニメ2本という形は崩れないのですか。1時間アニメ1本や15分アニメという可能性についてどうお考えですか。
サンキュータツオ 『刀語』※についてということですが、30分アニメ2本という形はぶれないのでしょうか。
山本 考え方としてはすごくありです。ただ、『刀語』は月1回1時間の放送だったのですが、それは制作会社のホワイトフォックスがスケジュール管理がしっかりしていたからできたということがあります。多分それ(毎週1時間)に耐えられる制作会社が実質ないかもしれないということが現実問題としてあります。
考えているのは映画との連動もそうですが、例えばですが同クールの2作品が別番組でありながら内容が連動しているというのはやりたいと思うことがあります。
サンキュータツオ 1クールという発想ではどうですか。今、1クール11本ですが、3本で終わるアニメと8本で終わるアニメをやるとか。ノイタミナ枠はクールで縛られなくてもいいんじゃないですか。
山本 ビデオマーケットのお客さんたちが、クールの頭を目指して話題にする仕組みができてしまっているんです。
それに露出量としても、例えば映画だと行こうと思ったら終わっていることがあるじゃないですか。テレビでもTwitterなどでいいネタさえあれば口コミが広がるのですが、それに1クールは最低でもいります。ノイタミナは今まで1クールものばかりでしたが、今後は2クールものが増えると思います。2クールあった方がみんなの心に残りやすいというのはやっぱりあるんですよね。
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