日本の地図、塗り替える――社会人大学院卒業生の横顔:ひと物語(4/4 ページ)
企業は保有する不動産を充分に生かしきれていない。そう語る41歳の不動産鑑定士は、バブル期を挟んで“土地”に翻弄されてきた日本社会の慣行を、経営戦略という観点から変革しようと、奔走している。不動産の歪みを無くせば、日本経済はまだまだ強くなるはず――。
好奇心を燃やし続ける
今、自分のキャリアを振り返ってみれば、目の前のチャレンジをとことん楽しみ、そこから学べるだけ学ぼうという構えが身についた瞬間から、自然と道が拓けていったと思う。
昔から勉強好きなわけではなかった。何もしなくてもテストでいい点がとれてしまう秀才肌。高校、大学受験には正面から取り組まなかった。転機は大学時代。世の中にこんなに学ぶことがあるのか、と勉強が楽しくなった。工学部、経済学部、人文学部と、専攻とは関係のない授業にも出て、卒業時は必要な単位の倍、240単位を持って卒業した。宅建と教職の資格も取得した。
社会人になってからも様々な資格やスキルアップに挑戦し続けた。簿記、ファイナンシャルプランナー、証券アナリスト、フォトリーディング……。本業の鑑定士では社外の有志と自主的な勉強会を続け、その人脈を大きな仕事につなげたことがある。
経営について理解を深めたいと、業務の合間をぬって、ビジネススクールにも通った。
ハードな毎日を送る同窓生の間でも、「寝ない男」として噂になるほど、予習、復習を欠かさなかった。レポートの提出前は朝から晩までぶっ通し。毎期3コマの授業を取り、文字通り寝ずにケースをこなした。
好奇心。それは、人間が忘れても失ってもいけない、太古の昔から持つ大事な財産ではないか。「やりたいことが見つからない」という相談を若手のビジネスパーソンから受けるが、現実が思い通りにならなくても、目標や志が見つからなくても、未来が見通せなくても、何かを知りたいと思う気持ちさえ残っていれば、なんとかなる。石川さんには、そんな風に思えるのだ。
2008年5月。ビジネススクールの卒業式で、アカデミックガウンに身を包んだ石川さんは、卒業生代表として挨拶に立ち、こう語りかけた。
「日本の企業には不動産がたくさん埋もれているにもかかわらず、活かされていない。それを使うべき人のところに届けてあげる。日本全国でそれができれば、経済厚生が最大化する。それを信じて、そのために頑張っています」
バブル時代の勢いで不動産業界に足を踏み入れた石川さん。立派な目標などなかった。ただ、ぶつかってくるものに全力で取り組み、深堀りしていくうちに、気が付けば、CREの分野でトップランナーになり、「日本の不動産のあり方を大きく変革する」という志が宿っていた。
休息は、ない。ビジネススクール卒業後は、英語を勉強し始めている。企業が国境を越え不動産を所有する時代。いつ業務が世界へと広がるか分からない。1日みっちり3時間。今では英語に触れないと寝付けない。「寝ない男」は、今日も明日も学び続け、自分の、日本の未来を形作っていく。好奇心というたいまつに、火を灯し続けながら。
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