“私的援助”にみる市場原理:ちきりんの“社会派”で行こう!(3/3 ページ)
政府などが配分を決める公的援助とは異なり、個人が援助先を直接選べる“私的援助”。そのため、援助先は偏りがちになりますが、私的援助を集めやすい分野にはどのような特徴があるのでしょうか。
(4)手頃な距離感
日本の私的援助市場では、同じ子どもでも、アフリカの子どもよりアジアの子ども、中国の子どもよりはカンボジアの子ども、日本国内の子どもよりは海外の子ども、の方が競争力があるようです。
アジアはアフリカより身近だし、中国は何となくイヤだけど「カンボジアはアンコールワットも素敵だったから助けてあげたい」という感じでしょうか。
国内の寄付対象者は、情報管理が難しいことも不利な点です。例えば、難民キャンプに援助しても、援助物資の一部は横流しされてしまいます。しかし、それは日本からは見えません。
一方、日本で誰かに寄付すると、その人が「ビールを飲んでいた!」「タバコを吸っていた!」とか、ひどいときには「楽しそうに笑っていた!」とまで、マスコミが騒ぎ立てます。
これにより、それらの被援助者は一気に競合優位性を失います。海外の難民キャンプへの寄付だって、相当程度が関係者のタバコ代や洋酒代に消えていると思いますが、それは寄付者には見えないので、とても有利です。
本当の弱者とは……
このように、この市場は残酷なまでに厳しいマーケットメカニズムで動いています。勝ち残っていくためには、上記のような傾向を踏まえ、「みすぼらしく純粋な子どもを前面に出し、できる限り目的を教育とヒモ付け、情報管理(マスコミ対策)に細心の注意を払うこと」が重要なのです。
本当の弱者とは「私的援助市場でさえ弱者である人たち」なのかもしれません。
そんじゃーね。
著者プロフィール:ちきりん
兵庫県出身。バブル最盛期に証券会社で働く。米国の大学院への留学を経て外資系企業に勤務。2010年秋に退職し“働かない人生”を謳歌中。崩壊前のソビエト連邦など、これまでに約50カ国を旅している。2005年春から“おちゃらけ社会派”と称してブログを開始。著書に『自分のアタマで考えよう』『ゆるく考えよう 人生を100倍ラクにする思考法』がある。Twitterアカウントは「@InsideCHIKIRIN」。
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