学校の就職指導が学生の就活を誤らせる(2/2 ページ)
就職指導で、学校が学生に勧める「自己分析」「キャリアデザイン」「業界研究」。しかし、それが学生の就活を誤らせる原因にもなっているのではないかと筆者は主張する。
3つ目は「業界研究・会社研究」だ。売り上げ・人員数といった規模を調べる、何かのランキングを見る、商品やサービスについて勉強する。これらは会社を選ぶ際にも、面接・選考に臨む際にも重要な情報であることは間違いない。本屋にはズラリとこの手の本が並んでいて、手に取るとビジネスパーソンでも意外な発見があったりするので、楽しんで読むのもなかなかだ。
しかし、前提として、会社の情報はかなりの部分がクローズされているということを知っておく必要がある。完全に情報が公開されている会社などありえない。さらに、公開されていない情報ほど重要性が高い可能性がある。みんなに知ってほしいこと、都合のいい情報は積極的に発信するが、その逆の情報は隠しておこうとするのは、どんな会社でも大して変わらないからだ。
それに、現時点の情報を知ったところで、数年後さえどうなっているか分からない。就職先を検討するには、あまりにも限定され、価値があるかどうかも分からないような類の情報であることを、まずは伝えるべきである。
不確実な未来に立ち向かう覚悟ができている学生の方がいい
自己分析・キャリアデサイン・業界研究は、このような前提のもとで行わない限り、逆効果になる可能性がある。もし、これらをやらせて就職先やその後のキャリアが見えたような気にさせているのなら、思考停止状態に導いてから人生の選択に当たらせているのと同じで問題だ。
もともと、学校が行う就職指導は、有名企業・上場企業・大企業を“いい会社”とし、それら企業に何人入社したかを学校間で競い合ったり、入試広報に結び付けたりすることを目的に行われてきた。だから、就職指導を“いい会社”に入るノウハウの伝授と理解しているのだろう。しかし、今求められているのは、そのような学校のメンツや学校経営を優先したノウハウではない。
まず教えるべきは「やってみないと適性は分からない」「未来は描いたようにはならない」「会社も業界も変化し続ける」という不確実な現実を理解させることと、不完全な情報の中でどう意思決定するかということだ。
採用する側に立ってみれば簡単に分かる。自己分析ができている学生、キャリアがデサインできている学生、業界をよく研究している学生などより、不確実な未来に立ち向かう覚悟ができている学生や不完全な情報の中でしっかり意思を固めてきた学生のほうが、働く意欲も仕事の力もありそうな感じがするから魅力的に見える。古い価値観による“いい会社”に入るノウハウを教えれば教えるほど、企業ニーズと乖離していくのである。(川口雅裕)
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