ボランティアってどんな気持ちになるんだろう?:郷好文の“うふふ”マーケティング(2/2 ページ)
対価をもらう作業ともらわない作業では、相手を思う脳の部位が違う。原初の労働、欲求、満足という人間の根本に触れざるを得ない。自分の仕事は本当に善いことなのか? もっと善いことができないか?
私たちの便利な生活からの「第2の収穫」
「食用仕向け量9100万トンのうち2272万トン、2割以上が食品廃棄物となっています。内訳は小売り・卸・製造の食品関連業者から1100万トン、家庭からも1100万トン、そのうち食品ロスは500〜900万トンにも上ります」
セカンドハーベスト・ジャパンの広報室長井出留美さんが言う。食品ロスとは規格外、加工残さ、仕込み過ぎ、売れ残り、返品、過剰除去(皮にも美味しい部分がある)による損失である。
そのうち品質に問題がないのに市場で流通できない食品を企業から寄付してもらい、困っている人に配給するのが同団体が行うフードバンク活動だ。日本では2000年から同団体が先鞭をつけた。
日系食品企業や外資系食品企業からの支援を得て活動が広がった。今では平日毎日、川崎など2カ所の店舗へトラックの引き取り便を出す。水曜日にも別のスーパーからの引き取りがあり、食品関連会社からの持ち込みや個人の宅配便寄付も絶えない。
寄付された食品は上野公園と隅田川べりでの炊き出し(スープキッチン)、東日本大震災の被災者世帯や諸施設への配達(食品パッケージ)、さらに困窮者自身の引き取り(パントリーピックアップ)として分配される。「セカンドハーベスト」、第2の収穫とはよく言ったものだ。
「それでも食品ロスのうち、まだ1万分の1しか活かせていません」(井出さん)
食は生命を維持するもっとも基本的なもの。だから食が困難な人を助けるのは尊い。しかも私たちの便利な生活からの「第2の収穫」だから心が痛む。
「ボランティアじゃなきゃダメ」という満足
井出さんは、どのようにボランティアを始めたのか。
ライオンで研究職だったとき、介護用品開発のテーマで社内業務コンテストに準優勝した。そのとき介護ボランティアに触れた。小さいころからの食への興味も手伝って、退職してフィリピンでの青年海外協力隊へ。栄養改善や食分野での就業支援をした。
帰国後、日本ケロッグで「食の広報」を務め、一人広報として企業PRを越えた食文化を広める活動もした。2008年からセカンドハーベスト ジャパンでボランティアを始め、3.11をきっかけに「震災−食−ボランティア」が彼女の中でつながった。そしてきっぱりと独立した。
私の知人の経営者も、被災地への救援物資運送を何十回もする。ボランティアはどこか人をドライブさせる。実は私もドライブされてもう一度やった。クソ暑い中、路上で被災者世帯が心待ちにする食品を十数名のボランティアと一緒に段ボール300個を詰め合わせた。「ボランティアやったよ!」と壁に自分の名前も書くのも楽しい。
第2の収穫に集まる農民ならぬ献民は大人気で、数週間先まで予約が入る作業もあり(参照リンク)、まるで人気レストランだ。真夏の箱詰め作業はダイエットにもなる。ビジネスでは「ボランティアじゃダメ」と言う。ちゃんと対価はもらいなさいと。それは正しい。でも「ボランティアじゃなきゃダメ」という満足もある。
対価をもらう作業ともらわない作業では、相手を思う脳の部位が違う。使う筋肉も違う。原初の労働、原初の欲求、原初の満足という人間の根本の活動や思いに触れざるを得ない。自分の仕事は本当に善いことなのか? もっと善いことができないか? 金銭的な報酬はなくてもビジネスアイデアや生き方コンパスを考えだす報酬がたっぷりある。あなたもボランティアをしませんか。きっと「原人」にかえれますよ。
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